後悔と罪悪感から始まる、不良男子高校生と引きこもり青年の交流。ふたりをつなぐのは、ある人がくれた優しさと温かさ

マンガ

公開日:2022/12/16

マイ・リグレット
マイ・リグレット』(砂糖野しおん/KADOKAWA)

 生きていると、時折「あの時ああしていれば」「あんなことしなきゃよかった」と後悔の念に襲われる事が発生する。そして大抵は動けずにいるうちに手遅れになってしまい、後悔の念だけが頭に残り、もやもやする……。『マイ・リグレット』(砂糖野しおん/KADOKAWA)は、そうした「後悔」から始まる、青年たちの物語。

 本作の主人公は、やさぐれた高校生・水津竜丸。学校はサボり気味で、財布を盗むわタバコを吸うわと、友達の勇仁と大和とつるんでやりたい放題して過ごしていた。そんなある日、勇仁が「ツケでメシが食える店がある」という噂を耳にしたと言い出し、3人はその噂の店・千田食堂へと向かうことに。

 その食堂は人の良いおじいさんが1人でやっている小さな店で、大和が「ぼくたちみんなお金持ってません!!」と伝えると、「3人ともメシ食っていきな」「金はある時でいいからさ」と本当にツケ払いで食べさせてくれた。

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 3人は、それをいいことに千田食堂へ通うようになり、「ラッキー」くらいの気持ちでタダ飯を食べていたのだが。あるとき竜丸は、ひょんなことから数万円の大金を得て、千田食堂へお金を返そうと思い立つ。しかしその日はなぜか店が閉まっており、次に店に入れたときには、おじいさんは心筋梗塞で急逝していた。

 竜丸は、最後におじいさんと会った際の自身の言動を振り返り、強い罪悪感と後悔の念に駆られる。そして、自分にできることはないかと考え、生前おじいさんが気にしていた引きこもりの孫・千田涼介に会うことにしたのだが、涼介はおじいさんを利用していた竜丸のことを憎んでおり、そのうえとんでもないコミュ障だった。どうにか涼介と話をしてお金を返そうとする竜丸を、「帰れ」「クズの自慰行為に付き合う気はない」と拒絶し続ける。それでも竜丸は、「オレに勉強教えてよ」「バイト代払うし」と根気強く通い続け、ついに勉強を教わる許可を得るのだった。

 竜丸の涼介への言動は、普通に考えれば「根気強い」の域を超えている。どれだけ無碍(むげ)に断られてもしれっと通い続け、そのうえでへらへらと涼介をクソニート&コミュ障呼ばわりし、心の壁を強行突破しようとする。内に籠ってしまい動けない涼介にとっては、この竜丸の強引さが救いになっているように感じた。竜丸のこうした積み重ねが、ふたりの関係を首の皮一枚繋ぎとめたのだ。

 一方、竜丸のこの行動は、彼が「痛みを感じにくい」と自称していることにも関係しているように思う。幼いころに起こったある出来事がきっかけで、竜丸は自身の痛みに対し鈍感になってしまっている。だが竜丸のこれは、本当に鈍いというより、自分が傷つかないための無自覚な防衛のようにも思える。そして竜丸の心の奥にある痛みに気づいていたのは、ほかでもない、千田食堂のおじいさんだった。

 この、本人には面と向かって口にはしないけれど、でも「分かっている」という関係が温かく、読んでいて心にじんわり温もりが広がっていくのを感じた。

 おじいさんが亡くなってしまったのは覆しようのない事実で、竜丸や涼介の不器用さの面倒を見てくれることはもうない。だが、ふたりの中には確実におじいさんの存在が強く残り続けており、今後も彼の優しさ、温かさは、きっと竜丸と涼介の成長の糧となっていくのだろう。これからふたりの関係がどうなっていくのか、竜丸の友人である勇仁と大和にも変化は現れるのかなど、まだまだ気になることが山積みだ。引き続き、彼らの心模様と成長を見守っていきたい。

文=月乃雫

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