密室を愛し、密室に愛された作家・鴨崎暖炉。その新作は、質・量ともに前作を上回る驚異の密室トリック7連発!!

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/19

密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック
密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック』(鴨崎暖炉/宝島社)

 第20回「『このミステリーがすごい!』大賞」文庫グランプリを受賞し、『密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック』でデビューを飾った鴨崎暖炉さん。同作は、密室トリックを6つも詰め込んだ密室づくしの一冊として、ミステリーファンから喝采をもって受け入れられた。

 このたび刊行された『密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック』(鴨崎暖炉/宝島社)は、そんなデビュー作からさらに密室トリックを増量し、なんと7つに! わんこそばならぬ「わんこ密室」のように、次から次へと密室のおかわりが供されるので興奮と驚きが止まらない。しかも、後半に向けて密室トリックがどんどんスケールアップしていき、その奇抜かつ大胆な着想に度肝を抜かれまくってしまう。「密室トリックは出尽くした」と言われる中、よくここまで手を変え品を変え独創的なトリックを放り込んでくるものだと感動すら覚えるほどだ。そのうえ、最後にダメ押しのように強烈な……いや、これ以上は興を削ぐのでやめておこう。

 本作の舞台となるのは、日本有数の富豪にしてミステリーマニア・大富ケ原蒼大依が所有する孤島「金網島」。男子高校生の葛白香澄は、この島で行われる「密室トリックゲーム」に招待されるが、集まった参加者たちとともに本物の密室殺人事件に巻き込まれることになる。

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 なお、本作はデビュー作『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』の続編であり、登場人物や世界観は前作から受け継がれている。とはいえ、前作を読んでいなくても問題ない。この世界では、殺人現場が密室である限り犯人が無罪になること、そのため密室殺人事件が急増していること、(密室殺人の無罪)判決が最初に下されたのが葛白の中学時代の同級生・蜜村漆璃だということさえ押さえておけば、知識としては十分だ。

 かくして始まった、孤島での密室殺人に次ぐ密室殺人。大富豪や執事、料理人といったいかにもミステリーらしい登場人物に加え、探偵系ユーチューバー、密室を崇拝する宗教団体の幹部、自称・千年を生きる吸血鬼など個性的すぎる面々が事件に巻き込まれていく。さらに、蜜村の事件を裁いた因縁の裁判官まで現れて謎解き対決を繰り広げたり、「密室全覧」なる密室専門の殺し屋が登場したりと、前作以上にカオスな盛り上がりを見せる。

 密室の中で、寝ていたベッドごと首を切断された被害者はどのようにして殺されたのか。鍵が厳重に保管されていたにもかかわらず、犯人はどうやって高所の密室に侵入したのか。描かれる不可能犯罪は実に魅力的で、どの密室トリックが気に入ったか、他の読者と語りたくなる(ちなみに私の推しは「十字架の塔の密室トリック」!)。キャラクター同士の掛け合いが軽妙で、情緒的で湿っぽい動機が語られない分、読み心地もカラッと爽快。純度の高い密室パズラー小説として、前作以上の満足感を与えてくれる一作だ。

文=野本由起

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