待ちに待った3巻の内容は!? 話題沸騰『女の園の星』日常の中の「ずれ」はこんなにも楽しい

マンガ

公開日:2022/12/25

女の園の星
女の園の星(3)』(和山やま/祥伝社)

 『女の園の星』(和山やま/祥伝社)を読んでいると、白い紙を広げて形を描き、塗り絵をしているような気分になる。読者の先入観をすべてなくし、まっさらにした状態で物語がギャグテイストで紡がれていく。こんな作品はなかなかない。

 すでに数々の賞を受賞して累計160万部を突破している本作。実写ドラマ化された『夢中さ、きみに。』の和山やまによる初めての連載漫画である。12月に発売された3巻の特装版には『女の園の星』のアニメがBlu-ray Discに収録され、物語のメインキャラであるふたりの男性教師の声を星野源と宮野真守が担当している。アニメアフレコ現場の様子を描いた描きおろし漫画もある。

 特装版だけではなく、内容も1巻や2巻と同様に『女の園の星』の世界観を思い切り堪能できる。

advertisement

 まず本作の主人公は女子校に勤める男性教師・星先生だ。連載が始まってしばらくは、女子校に通う生徒たちと同じように私たち読者の多くがなぜか独身だと誤解していたが、2巻で結婚して家族がいることが判明した人物である。

 職員室で隣の席の小林先生と会話をすることが多く、序盤ではこのふたりのやりとりを主軸にしたエピソードも多かったが、だんだんと生徒たちそれぞれの個性も詳しく描かれ始めて3巻では完全に男性教師+女子生徒たちの織りなすシュールな世界観のギャグ漫画になっていた。

 1巻、2巻と読んでいるはずなのに、新しいエピソードが始まるたびに、まっさらな気持ちに戻って読み手である自分がこの物語に色をつけているような感覚に陥る。なぜなのかと考えてみると、淡々とした描写やあえて言語化されない漫画全体の独特の雰囲気に思い至る。

 非現実的な設定も含まれてはいるが、どこにでもあるリアルが描かれていると言われれば「それもそうだ」と思える不思議な漫画なのだ。

 例をあげると、3巻にはテスト中の生徒たちと試験監督をする星先生を描いたエピソードがある。

 テスト開始の合図をしたあと、星先生は心の中でつぶやく。

緊張と不安のなか
真剣にテストを解く生徒たちには悪いけど
僕にとってこの時間はほっと一息つけるヒーリングタイム

 この一文を読んだとたん、作者の和山氏は教師の経験があるのかと驚いてしまった。

 私自身、以前は日本語学校で教師をしていたのだが、教師にとって授業は戦場であり、いかに生徒を退屈させず教えたことをインプットさせるかが肝になる。授業が終わり職員室に戻ると添削や採点、次の授業の準備が待っているので、仕事中は落ち着けるひとときがない。そんな中、テスト期間中に試験監督をするときがまさに心身を休めるヒーリングタイムだった。

 もちろん生徒がカンニングをしていないかを常に視覚でチェックしながら脳内を休ませている。テストの後は苦しくて長い採点タイムが始まることを思い出して「早く終わらないかなあ」と思うこともある。

 そんな私の経験からいっても、テスト中の星先生の感情はリアルだった。

 彼はヒーリングタイムのはずなのに、試験監督の真っ最中に自分の家庭のことや採点にかかる時間のことをいろいろと考えてしまう。しかも生徒たちは時々消しゴムを落としたり、コンタクトレンズを入れるなど謎の行動をとったりするので気もそれる。

 そう、ここまでは教師にとっても生徒にとっても珍しくないことなのだ。

 その後はぜひ読んで味わってほしいのだが、少しだけ突飛な出来事が教室で起こる。この日常からのずれによって星先生のヒーリングタイムは失われていき、その様子が読者の笑いを誘うのだ。

 大きなことが起こらなくても、ちょっとしたことで笑いたい。プラスの感情を味わいたい。

 『女の園の星』は、そう思ったときにぴったりの漫画なのだ。

 発売日、「女の園の星」はしばらくTwitterのトレンドになった。漫画を読んで塗り絵をしているような気持ちになるというのはどういうことなのか、本作で実感してほしい。

文=若林理央

あわせて読みたい