「ケンシロウ」(のような)キャラが近未来SFに転生? 原哲夫先生のミステリアスな一作『CYBERブルー』

マンガ

公開日:2023/2/12

CYBERブルー
CYBERブルー』(原哲夫

 リアル世界で「たられば」を想像しても無意味の場合がほとんどだが、創作の世界では実現可能な場合もある。例えば、好きな作品の主人公が、まったく違う世界に転生したら、どんな物語が繰り広げられるんだろう…とか。

 小学生のときに少年ジャンプ派だった私は、連載されていた『北斗の拳』を当たり前のように読み、テレビアニメも視聴していたが、特別大好きというわけでもなかった。物語の奥深さやキャラクターの心情、悲哀を多少理解できるようになったのは、年を経て学生になってから。全巻を一気に読破し、あらためて本作が長年支持されているワケを理解できた。

 作画の原哲夫先生の作品をもっと読みたい! という欲求から調べて知った作品が『CYBERブルー』(原哲夫)だ。なんと、『週刊少年ジャンプ』誌上で『北斗の拳』のあと、『花の慶次 -雲のかなたに-』が連載開始される前に連載されていた。なぜ、私は作品の存在すら知らなかったのか。当時は特段『北斗の拳』が好きではなかったというのもあるが、『CYBERブルー』は連載期間がわずか半年ほど。全31話、単行本(ジャンプコミックス)にして全4巻の短命で終わっている。おそらくそれほど世に知られていない、ミステリアスな作品だ。

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 内容についての前情報には一切触れずに全4巻を入手し、1巻のページを開くと、さっそく意外な世界観に惹き込まれた。

『北斗の拳』はSF作品である。核戦争後の荒廃した世界が舞台であり、重火器が登場するものの、基本的にバトルは体術で繰り広げられる。対して、同じくSF作品である『CYBERブルー』はガチSFで、テクノロジーが発達した近未来が舞台となっており、バトルは銃で行われる。違いを映画でたとえてみると、『北斗の拳』は『マッドマックス』、『CYBERブルー』は『ブレードランナー』のような世界観をイメージするとわかりやすいかもしれない。物語冒頭でひん死の主人公が求めているのは、「水」ではなく、「酸素供給システム」だ。

 漫画を楽しむうえで欠かせないのがキャラクターだ。『北斗の拳』の主人公は寡黙で強いケンシロウ以外に考えられない。かたや『CYBERブルー』の主人公は、ケンシロウとは打って変わって、純粋無垢で弱い少年だった。ただし、銃の早撃ちが得意なようだ。このスキルで強力な悪党たちを成敗していくのは、心もとない気がする。しかし、まったくの意外な展開。ややネタバレにはなるが、主人公はあっけなく惨殺され、その後、あのケンシロウを彷彿させる主人公として復活する。こうして、ケンシロウが近未来SF作品に舞い降りるのだ。

「おれは もう一度 死んでいる」
「よく狙え チャンスは一回だ! そのかわり はずしたら…」

 といった、どこかで見聞きしたようないくつかのセリフに、『北斗の拳』をよく知るファンならニヤリとしそうだ。また、銃で誅殺されていく悪役たちの断末魔にもなつかしさを覚えるだろう。原作者こそ違えど、これは間違いなく原哲夫作品なのである。

 ちなみに本作は、いわゆる「Fワード」がちりばめられている、というより、過激なFワードのオンパレードだ。ショッキングでスリリングな発言や絶叫の数々が、読者の感情を強烈に刺激する。初読の人は、心して本書を開いたほうが良いかもしれない。

文=ルートつつみ (@root223

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