もし死後に「宅配便」を送れるなら。天国からの贈り物を受け取った4人が描かれる、あたたかな短編集

文芸・カルチャー

公開日:2023/3/2

天国からの宅配便 あの人からの贈り物
天国からの宅配便 あの人からの贈り物』(柊 サナカ/双葉社)

 命の灯火が消えかけたそのときに、人が思い出すのは身近な家族や友達ばかりではない。遠い過去に別れてしまった忘れがたきあの人。まったくの他人からの何気ない言動に救われた経験。だがいくら大切に想っていても、家族でも友達でもないその人に、何かを遺すことは容易ではない。そんな、消えかけた縁をつなぎなおしてくれるのが「天国宅配便」。死後に、指定した人のもとへ届け物をしてくれるサービスだ。『天国からの宅配便 あの人からの贈り物』(柊 サナカ/双葉社)では、予期せぬ宅配便を受け取った4人のエピソードが描かれる。

 夢破れ、転売業者として生計をたてる及川基樹のもとに届いたのは、売れば高額間違いなしのレアなカメラ。贈り主は、何度か売買取引をしたことのある老人だ。及川にとってはカモの一人でしかなかったが、孤独な老人にとっては及川とのやりとりは、貴重な安らぎのひとつだった。切々とカメラの思い出をつづり、きっと及川なら大事にしてくれるだろうとカメラを贈った老人だが、及川はそんな真心が通じる相手ではない。転売するのはもちろんのこと、カメラを使ってもう一つ、老人の真心を踏みにじるような詐欺を企てるのだが……。

 第二話は、アメリカからひいおばあちゃんに届いた、どこの国の言葉とも知れない、読めない手紙。第三話は、身分が違いすぎるせいで、友人としての付き合いすら絶たれてしまった、かつての雇い主から届いた不思議な指示。第四話は、自分をひどいめにあわせた七人の女性たちから連名で届いた招待状。シリーズ第二作となる本作で描かれるのは、すべて受取人の〝今〟とは接点のない人たちからの届け物だ。どれも、差出人、あるいは受取人の過去にさかのぼらなければ、贈られた真意を知ることができない。断固として受けとりを拒否する姿勢を示した第四話の森山亜美のように、受取人が意に介さなければ、無用の長物になってしまうものばかりだ。

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 だが、届け物と一緒に受取人に託されるのは、差出人が生きてきた歴史と積み重ねられてきた想いだ。そのかけらにわずかでも触れてしまった以上、無視することは誰にもできなくなる。及川のように、善意とはかけ離れた動機だったとしても、一度受けとってしまった以上は、その歴史と想いを、自分自身が未来を生きる力に変えずにはいられなくなるのである。

 読みながら、人が生きるというのはこんなにも、大きな力を蓄えるということなのか、と思う。何か大きな功績を残したわけじゃなくても、晩年は孤独で何ももたない人だったとしても、人は生きているだけで誰かの支えになりうる力を備えていくことができる。家族じゃなくても、友達じゃなくても、その力を誰かに託すことで、ともに生きていくことができるのだ、と。

 人が死の淵に立たされたとき、誰かに何かを届けたいと思ったとしたら、その胸の内に生まれているのはきっと、幸せに生きてほしいという祈り。そして、ほんのわずかでいいから、自分を忘れないでいてほしいという願いだ。その静かで、あたたかな光が、この作品には満ちている。

(文=立花もも)

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