地銀と中小企業の胸アツなリアルドラマ! 地方で日本を支えるバンカーたちが示す未来へのヒント

ビジネス

公開日:2023/3/31

地銀と中小企業の運命
地銀と中小企業の運命』(橋本卓典/文藝春秋)

 テレビやネットで報じられる日本経済の問題は、大企業に関する話題であったり、統計やデータに関する情報だったりして、身近な問題としてイメージしにくいだろう。しかし本書『地銀と中小企業の運命』(橋本卓典/文春新書)は、そんな日本経済の今を、各地の地方銀行と中小企業を中心とした地方経済の観点からリアルに伝えてくれる。

 著者は、共同通信社編集委員で地域経済や地域金融に詳しい橋本卓典氏。国によるコロナ禍の中小企業の資金繰り支援策が終了し、多くの企業が存続の岐路に立たされていると橋本氏は言う。そんな今、日本経済にとって必要なものや金融機関が行うべき中小企業支援のあり方を、現状分析や、地銀の成功事例を交えて解説する1冊だ。

 その内容は、「金融検査マニュアル」が金融機関の足かせとなった経緯から、企業支援にとって重要な「経営改善計画」の策定方法、金融庁が金融機関の企業支援担当者などに向けて2022年12月に公表した「業種別支援の着眼点」(試行版)の解説まで、多岐にわたる。金融機関で働く人や金融に関心のある若い世代、中小企業の経営に携わっている人は、本書で企業支援に関して幅広く学べるだろう。

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 しかし本書の最大の魅力は、日本経済に関わる人すべてが参考にすべき成功事例として、地方経済を舞台にした多くのドラマが紹介されていることだ。

 たとえば、東日本大震災で被災した企業を支援するため設立された「東日本大震災事業者再生支援機構」の事例。全国の地方銀行やメガバンクから集まったバンカーたちが被災地の経済復興のために奮闘し、支援事業者のうち4分の3を黒字に転換させるという成果を生んだという。震災で心をくじかれた経営者たちの「心に灯をともすこと」を主眼に置いた支援活動の様子は、感動的だ。

 山梨県小淵沢で駅弁などを手がける食品メーカー・丸政が、山梨中央銀行の小淵沢支店支店長の支援によって再生した物語にも、胸が熱くなる。現場での体制の立て直しだけでなく、「社長は外に出ないとダメ」「儲かるけどやらない」といった金言の数々も会社を変えた。バンカーの仕事はただ融資をするのではなく、企業の実情に寄り添った自分事としての支援だということが、各事例から伝わってくる。

 どの事例も、苦境や会社の暗部さえも関係者の言葉と共にリアルに伝えていて、深い取材に基づきまとめられたものだとよくわかる。方言も交えて語られる物語は、臨場感を持って読者の心に響く。金融関係者だけでなく、幅広い層がドラマ『半沢直樹』に興奮したように、人物が生き生きと躍動するような表現に満ちた本書は、金融は堅苦しいと感じている人も楽しめるはずだ。

 経済や経営というと、財務データなどの数字から、取っつきにくさを感じている人もいるだろう。しかし、経済の中心にいるのは「人」であり、金融支援には人間の心と向き合うことが不可欠だと本書は語る。経済の知識が少ない若い層や、金融は難しいと思っている人にこそ手に取ってほしい。金融に対するイメージを変えてくれるはずだ。

文=川辺美希

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