「人類の心の復興」を目指す!? 掴みどころがない「先生」と、よからぬ企みを抱える「私」による、知的で現実のような空論!

マンガ

更新日:2023/4/27

衒学始終相談
衒学始終相談』(三島芳治/白泉社)

 現実ではありえない、ちょっぴり不思議な世界観を楽しめるのは漫画の良さ。『衒学始終相談』(三島芳治/白泉社)はまさに、そんな醍醐味を思う存分味わえる一作だ。

 本作では大学の研究室で謎の研究をする女の先生と、そんな先生に翻弄させられる助手の女子生徒が、哲学チックに思えるトンデモな空論を繰り広げる。真面目なように見えて、実はふざけ倒しているという世界観がたまらない作品なのだ。

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掴みどころのない先生とよからぬ企みを抱える女子生徒が繰り広げる“現実のような空理空論”

衒学始終相談 P6
©三島芳治/「楽園」/白泉社

衒学始終相談 P7
©三島芳治/「楽園」/白泉社

 気候変動や疫病の蔓延など、終末的な状況である世界で、人々の心は傷つき、壊れていた。

 そんな中、とある国立大学に入学した「私」は、モラトリアムな学習意欲を持て余す中で、ひとりの「先生」と出会い、助手をするようになる。

「先生」は大学から下りている巨額の研究費を使い、何かの研究に勤しんでいるよう。だが、「私」からしてみれば、毎日気楽そうに暮らして大学に居座っているように見え、羨ましくなった。

 そうだ、いつか研究成果を横取りして「先生」を追い落とし、自分がそのポストに収まろう。そう考えた「私」は「先生」がしている研究を探る。すると、予期せぬ答えが。なんと、先生は「人類の心の復興」を目指し、さまざまな研究を行っているのだという。

衒学始終相談 P9
©三島芳治/「楽園」/白泉社

衒学始終相談 P10
©三島芳治/「楽園」/白泉社

「私」は、イマイチ「先生」がしている研究内容の実態を掴めないまま、助手を継続。その中で「私」は実験台として、よからぬ企みを消し去る“希釈促進薬“を飲まされたり、今までに集めた「私」の情報から本物とそっくりな感覚を持ち、受け答えをするCGを作られたりと、常識では考えられない経験をするように。

衒学始終相談 P22
©三島芳治/「楽園」/白泉社

衒学始終相談 P23
©三島芳治/「楽園」/白泉社

 だが、「高校までに習った世界のことは忘れたまえ」と口にし、常識にとらわれない「先生」と行動を共にしているうちに、世界の見え方が少しずつ変わっていく。

 さらに、時折、妙に感傷に浸った顔を見せる「先生」の人間的な部分も気になり、彼女に興味を持つようになる――。

 本作は、なんとも不思議な空気が流れている、まさに常識にとらわれない作品だ。人間から心を分離して心の形を実体化したり、本音を吐かせる「本心告白コーヒー」が出てきたりと、現実世界ではありえない展開の連続に驚かされる。

 また、シュールな笑いにクスっとできるのも本作の良さだろう。例えば、軍用飛行機の妹にあたる機体の設計を他国から依頼された時のエピソードは、個人的にお腹を抱えて笑うほど面白かった。

「先生」は「私」が持っている“妹観”を質問。「私」が思い描くハチャメチャな妹像を参考に、なんと力よりもかわいさに全振りした試作機案を制作したのだ。

衒学始終相談 P92
©三島芳治/「楽園」/白泉社

衒学始終相談 P93
©三島芳治/「楽園」/白泉社

 こうした無邪気な一面を持ち、掴みどころがない「先生」と翻弄させられっぱなしな「私」の凸凹コンビの師弟関係が、この先、どうなっていくのか気になってたまらない。

 読み進めるほどに謎が深まり、不思議で胡乱な会話が繰り広げられる本作。手に取れば、作りこまれたこの世界観から抜け出せなくなること間違いなしだ。

文=古川諭香

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