「僕の家には怪物が住んでいる」15年以上無職・35歳の兄だけじゃない。この家族、みんな変。僕も…変⁉

マンガ

更新日:2023/5/17

住みにごり
住みにごり』(たかたけし/小学館)

 この物語は真夏に昼寝をしている主人公が見た凄惨な夢から始まる……。

住みにごり』(たかたけし/小学館)はホラーなのだろうか。いや、それにしては笑えるポイントもある。とすればブラックなギャグ漫画なのか。ギャグなはずがない。登場人物みんなが狂っているのだから。

 読めば読むほど、恐怖と笑いの入り混じった世界に翻弄され、やがて私たち読者もその不穏さに飲まれていく。序盤からしばらくは家族の日常が描かれているだけだったが、物語が進むと不穏な雰囲気は読者の不安に変わっていく。

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 何度も重版され、ビートたけし氏など著名人から絶賛されて宝島社による『このマンガがすごい!2023』にランクインした理由も「登場人物全員、どこかおかしいのでは?」と思わせる独創性にあるのだろう。

 主人公の末吉は「会社から長期休暇をもらった」と言ってひさびさに実家に戻り、リストラされた父、車椅子生活を余儀なくされている母、よく実家に来る離婚歴のある姉、そして部屋にこもってニート生活をしている兄のフミヤと再会した。

 35歳のフミヤは外見からして不気味だ。15年以上無職で、毎日ポテトチップスを食べる生活をしており、太っていてムダ毛も剃っていない。末吉はそんな兄に嫌悪感を抱いており、約20年会話をしていない。

 序盤、このフミヤが家族の脅威なのかと思いきや、ページをめくるごとに「あれ? おかしいぞ」と読者は首をかしげることになる。

 フミヤだけではない、それぞれの登場人物の狂気がクローズアップされていくのだ。

 最初は、フミヤがひさびさに外出するシーンにそれが表れる。

 タンクトップだけで太った体を隠そうともせず、脂肪や乳首が目立つ格好で外にいるのに、末吉以外誰もフミヤにドン引きしていない。あまつさえ家族以外のある男はフミヤを見て「自分のセンスを貫いている人に憧れるんですよね」と話す。

 笑えるシーンで終わらせても良いのだが、「どうして末吉以外はなんとも思わないの? プラスに感じている人までいるの?」と疑問を抱き始めるとだんだんと恐ろしくなってくる。

 だんだんと両親の異常性もあぶり出される。

 たとえば父は、妻(末吉たちの母)が脳出血で倒れてから家事を担うやさしい人物でもあるのだが、ちょっとしたことでキレてテーブルを蹴る二重人格のような一面がある。

 母は母で、「空腹で飲むのが一番胃に悪い」といった父の飲酒や喫煙に対する注意書きを用意して、フミヤに頼み家中の壁に数えきれないほど貼らせている。

 それだけなら「こういう夫婦もいるのかな」と思うだけで済むが、末吉たちの両親は大きな秘密を抱えて暮らしていた。

 狂気はどんどんと拡大して、末吉たちの周囲の人物にもスポットをあてていく。

 家族以外でメインとなる登場人物は末吉と幼なじみの女性・森田だ。末吉が恋をしている女性であると同時に、フミヤも彼女への想いを募らせ、彼女のバイト先の名札を集めては部屋で変態的行為をしている。

 しかし彼女は一家の狂気を受け止める側の人間ではない。森田の気味の悪さは少しずつ明らかになる。

 恐らく本作は不穏なホームドラマで終わらない。家庭崩壊の足音は、すぐそこまで迫っている。しかし実際に崩壊するのかはわからない。これから予想もつかない展開が続くだろう。

 もう誰も信じられないと読者が思った瞬間、本作は面白さを増していく。最後まで見届けたい漫画だ。

文=若林理央

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