11歳の幼き少女が王様に! 対立派閥の領袖は実は恋人同士で彼女を護る…“疑似家族”王宮ファンタジー開幕

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公開日:2023/5/19

ザーフィラ陛下と黒と白
ザーフィラ陛下と黒と白』(もといも/白泉社)

 よみきりが読者アンケートで異例の支持を集め、短期集中連載がスタートした、もといも氏の『ザーフィラ陛下と黒と白』(白泉社)。注目作品のコミックス第1巻がこのたび発売となった。

 わずか11歳の少女ザーフィラは、父王が半年前に身罷ったため、カク・シディ王国の第11代国王として即位した。ところが彼女はいまだ王としての器を示せておらず、その幼さも相まって、臣下からは侮られて敵の多い立場だった。

ザーフィラ陛下と黒と白 p.6

ザーフィラ陛下と黒と白 p.7

ザーフィラ陛下と黒と白 p.8

 国内には白の派閥と黒の派閥という二大派閥があり、なかでも白の派閥の宰相補佐・シラジュと、前王弟でザーフィラの後見人を務める黒の派閥のラシェドは激しい対立を続けている。だがシラジュとラシェドは、実は将来を誓い合う恋人同士だった。ふたりはザーフィラを支えるために、表では対立するふりをしながらも、それぞれの派閥の中から彼女を護っているのである。ザーフィラはそんなふたりから頼られる立派な国王になりたいと願い、さまざまな事件を通じて成長を遂げ、王としての才覚を示していくのだが……。

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ザーフィラ陛下と黒と白 p.12

ザーフィラ陛下と黒と白 p.13

 少女の成長物語×王宮ファンタジーという王道の物語に、同性カップルを含めた疑似家族要素で独自色を加え、キャラクターの表と裏の顔の落差を魅力的に描く『ザーフィラ陛下と黒と白』。各キャラクターがみせるギャップにあふれた姿は、本作の大きな読みどころだ。主人公のザーフィラは、当初はやや頼りない国王として登場するが、物語が進むにつれて次第に威厳を示していく。

 ある日、大臣の孫娘が立ち入りを禁じられた区域の中へ入り込み、ザ―フィラは王として彼女に処罰を下すように求められるが、これは大臣が仕掛けた罠だった。罪を許しても、罰を与えても難癖をつけられてしまうという不利な状況の中、ザ―フィラは孫娘の行いを無分別な子どものしたことだから仕方がないと言い放ってみせる。王であるザ―フィラの言葉に従えば、孫娘は公的に成人の権利を失い、子どもとして扱われることになる。かといって自分は子どもではないと主張すれば、成人として相応の処罰を受けなければならない。罠に嵌まるどころかそれを逆に投げ返し、威厳に満ちた表情と態度で臣下たちを圧倒するこのシーンのザ―フィラはとびきり印象的だ。

ザーフィラ陛下と黒と白 p.38

 一方、問題が全て片づいた後には、ラシェドとシラジュに向かって「ちゃんと王様やれてたかなぁ⁉」と今更ながらに慌てふためく可愛らしい姿もみせる。

ザーフィラ陛下と黒と白 p.42

 シラジュとラシェドも、表では敵対する関係だが、裏では愛し合うラブラブの恋人同士という、予想外の顔で読者を驚かせてくれる。国いちばんの色男を自称するラシェドは、前王弟という立場も相まって言いよる女性が後を絶たないが、彼の目に映るのはシラジュだけ。一方、優男にみえるシラジュは、かつては宰相の護衛を務めていたほど武勇に優れており、ザーフィラが危機に陥った際には大活躍をみせる。シラジュとラシェドはそれぞれザーフィラを大切に思っており、疑似家族を築く3人がみせる揺るぎない絆や信頼関係が、本作にあたたかい読後感をもたらすのだ。

 11歳という若さで王位を継いだザーフィラの地盤は危うい。建前上は頭を垂れる重臣たちのなかには、己の欲望のために彼女を退位させようと企む者たちが潜んでいる。しかし、降りかかる危機を乗り越えるたび、ザーフィラを支えようと志す人たちが少しずつ増えていく。ラシェドとシラジュに護られるだけの立場ではなく、ふたりを護れるような王になりたい。そう誓って奮闘を続ける少女の姿が、なんとも頼もしく、その小さな背中にエールを送りたくなる。幼き王は、どのような新時代を切り拓いていくのか。今後のザーフィラの成長が、楽しみでならない。

文=嵯峨景子

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