敵は先入観!「伊坂幸太郎史上、最高の読後感」に魅了される読書家、続出の話題作

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/24

逆ソクラテス
逆ソクラテス』(伊坂幸太郎/集英社文庫)

 「子どもに読ませたい本は?」と問われたら、間違いなくこの本の名を挙げたい。いや、本当は子どもに限らない。決めつけばかりの上司にも、それに辟易としている同僚にも、人生逆転なんて無理だと思っている後輩にも、簡単にはいかない現実に立ち向かっている友人にも、この本を薦めてあげたい。これはとびきり爽快な人生の教科書。あらゆる世代の人のモヤモヤをスカッと晴れさせてくれるに違いない1冊だ。

 そんな本が、伊坂幸太郎さんによる『逆ソクラテス』(集英社文庫)。2021年本屋大賞にノミネートされたほか、柴田錬三郎賞受賞を受賞した傑作だ。無上の短編5編を収録するこの本は、単行本時に累計発行部数20万部を突破。発売からしばらくたった今でも、さまざまな世代からの支持を集め、ロングセラーが続いている。「伊坂幸太郎史上、最高の読後感」とも言われるこの本の読み心地は、とてつもなく爽やか。多くの人の心を掴んで離さない、話題の作品だ。

 この本に収録されているすべての短編の主人公は小学生。その多くが、大人になった主人公による回想というスタイルをとっている。たとえば、表題作「逆ソクラテス」では、主人公の加賀が、自身が小学6年生だった頃のことを思い出す。彼はその頃、転校してきた安斎と仲が良かった。どこか大人びた安斎は、クラスメイトの草壁が担任の久留米から「ダメな奴」として扱われていることを気にしていた。久留米は自分が常に正しいと信じきっており、クラスのみんなはその久留米の考えに影響を受けて、草壁のことを馬鹿にしている。安斎は、そんな担任の先入観を崩してやろうと、ある計画を立てるのだ。

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 安斎は言う。誰かが物事を決めつけて、偉そうな態度を取ってきた時、それに抗う方法があるのだと。それは、「僕はそうは思わない」という台詞。落ち着いて、相手の頭に刻むようにその台詞を口にするのだ、と。「そんなことに効果があるのかなあ」と小学生の主人公は言うが、この物語を読むと、すぐにでもこの言葉を真似してみたくなる。言葉の持つ力を信じずにはいられなくなってしまうのだ。

 読書家たちは、この本から何を感じたのだろうか。

壱倉
本書を読みながら、子供の頃は小学校がひとつの社会だったなということを懐かしく思い出しました。あの頃は教室が世界のすべてだった。先生の言葉は絶対で、足の速い子が正義で、大人はみんな真実を知っている…。そんな子供の肌感覚を文章に落とし込んで再現するこの筆力、すごい。「僕はそうは思わない」と今の私は言えるだろうか?先入観で物事を決めつけてはいないか?ハッとさせられる言葉に出会うたび、自分の胸に問い掛けてしまいます。爽やかな読後感も素晴らしく、何度でも読み返したい一冊。

ひめか*
自分が正しいと決めつけている大人や理不尽に恫喝する大人、みんなを見下すいじめっ子。身の回りの問題に正面から立ち向かっていく子供たちの姿は頼もしく、輝いていた。ユーモアを交えた筆致で、駆け抜けた先に爽快感が広がる。見た目だけで本質はわからない。先入観や固定観念を捨てて「僕はそうは思わない」と言える芯の強さ。正直で約束を守る真面目さ。大人が忘れかけている大切なことを呼び起こしてくれる。

おさとう
小学生の日常と非日常を題材とした短編5作がまとめられた本。小学生特有とも言える小さな社会での企みや冒険が臨場感たっぷりに描かれており、あの頃のまだ見ぬ世界に対する高揚感や緊張感を追体験するような気分が味わえた。賢い小学生が悪い大人をやっつけるといった単純明快なお話ではなく、子供も大人も色々な立場で悩みながらも現実と戦っていく様子が描かれており、多くの人が共感できるストーリーになっていると感じた。自分も小学生の頃の素直な気持ちを取り戻し、「逆ソクラテス」とならないよう気をつけて生きていきたいと思った。

おから
幼い頃にも読みたかったですが理不尽な世の中を生き抜く大人としてもいま、手元に置いておきたい一冊です。

山口繭
是非とも10代の若者に読んで欲しいですし、もちろん私のような大人が読んでも大きな勇気を貰える作品集です。「他者から貼られたレッテルを剥がしてみる」「自分が考えたことは思い切って行動に移してみる」そうすれば世界が違って見える。全ての短編に共通して古典的・哲学的なテーマが盛り込まれていて、生きることが少し楽しくなるような、希望が湧いてくるような、清々しい読後感を味わえました。小学生あるいはその頃の回想という風景も、子供の鋭い観察力と感性からでしか得られない宝物がある事実の裏付けとして活きています。

ほんどてん
小学生が主人公の短編小説5編からなる、年代に関係なく心に響く一冊だと思いました。印象に残った言葉の一つは表題作の中の「僕は、そうは、思わない」。先入観から、自他を守ることが出来る、最強の言葉のように思いました。決めつけないで欲しい、決めつけに負けないでほしい。物語の中で懐かしい小学校の風景を感じながら、人と人との大切な様々を考えさせてくれる本だと思いました。読後はとても温かな気持ちになりました。

ゆのん
どの話も最高であり、理不尽な事に健気に立ち向かおうと頑張る彼等の言動に笑いと涙を貰った。伊坂幸太郎らしい『勧善懲悪』。胸がスッとするもの、温かく微笑ましいもの、感動に覆われるものと様々な気持ちを私の心に巻き起こす。読了後『伊坂最高っ!』と叫んでしまう程に。キラキラ輝く前途ある子供達にエールを送れる大人でありたい。あぁ…(溜息)伊坂幸太郎先生。私はあなたの作品が大好きです。

 多くの読書家たちがこの本を絶賛。子どもたちの奮闘に心揺さぶられたようだ。

 あとがきで伊坂幸太郎さんは、この本のことを「デビューしてから20年、この仕事を続けてきたひとつの成果のように感じています」と語っているが、なんて素晴らしい成果なのだろう。こんなにも清々しい気持ちにさせられたのは久しぶり。今を生きる子どもたちに読んでほしいのはもちろんだが、あらゆる理不尽に抗う大人にこそ、この本は必要とされるのではないだろうか。

 この本を読めば、今から変わり、未来が変わる。きっとあなたにとっても忘れられない1冊となるだろう。

文=アサトーミナミ

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