ジブリ作品を支える久石譲。生活スタイルや創作エピソードからわかるその人柄

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公開日:2023/6/17

感動をつくれますか?
感動をつくれますか?』(久石譲/角川書店)

 私がジブリ作品と初めて出会ったのは小学2年生のとき。テレビ放映された『天空の城ラピュタ』は、観終えてから1週間以上、何をしていても上の空にさせた。勉強していても、食べていても、布団に入っても、パズーとシータのその後を私に想像させた。終日、気持ちがふわふわとしていたことを覚えている。

 当時からジブリ作品といえば(ほとんどの)監督は宮崎駿氏、音楽は久石譲氏ということは知っていたし、お金を貯めて1万4000円ほど(小学生には高額すぎる!)もする『風の谷のナウシカ』のVHSを買ったり、テレビから流れるジブリ作品の曲をカセットに録音してオリジナルのフェイバリットジブリ楽曲集を作って毎日聴いたりしていた。

 さて、少年だった私は、少年少女が大冒険を繰り広げるジブリ作品を手掛ける宮崎氏について、勝手失礼ながら「自由奔放で少年らしさが色濃く残るとっつきやすいオトナ」というイメージをもっていた。しかし、後年、さまざまな情報にふれるにあたってストイックな仕事の鬼であることを知り、驚くとともに、だから最高のクオリティの作品を生み出せるのだなと納得した。

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 では、久石氏については、どのような人柄なのだろうか。17年以上前の古い書籍となるが、2006年発行の『感動をつくれますか?(角川oneテーマ21)』(久石 譲/角川書店)から、その一端をのぞくことができる。

 本書で、久石氏は「頑張ろうとすれば、夕食抜きでぶっ通しでもできる。(中略)しかし、それをやってしまうと過度な負荷をかけることで、翌日の効率が確実に落ちる」そのため、力量を維持継続していけるかどうかが、一流と二流との差だと述べている。

 具体的に、久石氏は大まかに次のようなパターンで毎日を過ごし、『ハウルの動く城』の作曲群を完成させた。

朝9時45分、起床。
コーヒーを飲んで、10時から約1時間、周辺の山々を散歩。
シャワーを浴びて、12時過ぎにスタジオに入る。
夕方6時まで曲づくりに没頭。
6時から食事。空腹であってもなくても強制的に夕食を摂る。
…夜中の12時か1時ごろまで曲づくり。
(以上、スケジュール部分から一部抜粋)

 自分で自分の態勢を整えるストイックさが、ジブリの名曲を生み出すベースになっていたことが語られている。

 また、久石氏は、本書を通してクリエイティブにおける「知性」と「創意工夫」の重要性を繰り返し説いている。

 先見の明をもっていた久石氏は、『風の谷のナウシカ』を作曲していた頃、当時の値段で1600万円もする高額機材フェアライトを購入し、新しい作曲スタイルで「ナウシカ・レクイエム」などの名曲を生み出した。しかし、やがて機材がどんどん発達、安価になり、その結果、似通ったサウンドが巷にあふれ始めたことから、本書発行時は打ち込みを中心としたスタジオワークから、ホールで生のオーケストラの音を使う方向へシフトしていたことを明かしている。独自の音を出す伝統楽器への興味も示しつつ、次のような創意工夫のエピソードを紹介している。

『もののけ姫』作曲時の久石氏は、尺八や琵琶といった日本古来の伝統楽器を多用しようとしたそうだが、宮崎監督に「それが鳴った瞬間に、『はい、ここは日本!』というレッテルを貼ったようになる。純粋な気持ちで聴くことができなくなってしまう」と眉をひそめられた、という。

 そこで、久石氏は、ハーモニーを奏でるところで下に篳篥(ひちりき)、上には南米のケーナを重ねる、という方法によって、ベースはオーケストラであっても西洋的なテイストではない音楽を生み出した、と述べている。

 今年7月公開予定のジブリの新作、宮崎監督映画『君たちはどう生きるか』の劇中音楽について、誰が手掛けるかはまだ明らかにはされていないが、長年ジブリ作品を支え続けた久石氏の音楽を熱望するファンは多い。

 新作映画公開前の、注目ポイントのひとつになりそうだ。

文=ルートつつみ (@root223

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