猛暑を乗り切るための基礎知識。体内の「コア温」と「環境を取り巻く温度」がカギに

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公開日:2023/6/22

40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか 体温の科学から学ぶ猛暑のサバイバル術
40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか 体温の科学から学ぶ猛暑のサバイバル術』(永島計/化学同人)

 地球温暖化が叫ばれて久しい。年々、世界の平均気温は上昇傾向にあり、気象庁によれば、直近の2022年で、1991~2020年の30年平均値との差が+0.24度となり、1981年の統計開始から数えると6番目に高い数値を記録。100年あたりで0.74度のペースで上昇しており、1990年代半ば以降では特に高温の年が増えつつあるという。

 もちろん、日本もその影響を受けている。本稿掲載の2023年は夏の猛暑も警戒されるが、都内では、5月時点で19年ぶりの真夏日を記録。早くもエアコンに頼ることになった。うだるような暑さが続く環境は、私たちにどのような影響を与えるのか。その問いに答えるのが『40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか 体温の科学から学ぶ猛暑のサバイバル術』(永島計/化学同人)だ。

 衝撃的なタイトルに目を奪われる本書は、「生理学、とくに体温・体液の調節機構の解明」を専門とする医学博士の永島計氏が、人間の体温調節のしくみに焦点を当てながら猛暑を乗り切る知恵を授ける1冊だ。「命にかかわる危険な暑さ」とどう向き合うか、私たちに考えるきっかけを与えてくれる。

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目標は「37℃前後」。カギとなる体内の「コア温」

 そもそも、体温とは何か。本書で得られる知見のひとつで、私たちがイメージする体表近くの温度ではなく、体内の脳や心臓、肝臓や腎臓が存在する「中心の温度」が重要というのは、意外だ。

 かつて、有名な生理学者のアショッフは、「中心の温度」を「深部体温」または「中心(コア)温」と定義付けた。このコア温度をコントロールするしくみこそが体温調節の根幹となるシステムであり、体内では目標のコア温度にあたる「セットポイント体温(設定温度)」を基準に、各器官が働いているという。

 多くの人にとって、コア温度は「37℃前後」だそう。コア温度がその基準より上昇してしまった場合には、人間の体は汗をかくなどして体温を調整しようとする。

 また、他の動物と比較すると体毛が薄く、四肢が細く長いのが人間ならではの暑さに対応するための特徴というのは目からウロコである。そして、人間であれば、服を脱ぎ、水を浴び、うちわであおいで体を冷やすなどの行動も、コア温度を調整するための大切な手段だ。

「皮膚温度」は環境に影響される。快適の目安は「21~37℃」

 コア温度が重要と述べたが、人間の表面にあたる皮膚にも生体の温度センサーが備わっている。私たちが暑さや寒さを感じるのはこの機能があるからで、気温の変化も皮膚温度に影響する。

 気温は体温調節に密接に関わるものであるが、それだけではなく湿度も体温に影響を与える。健康面など問題がなければ通常、人の環境を取り巻く温度が皮膚温度より低いために熱が体から逃げていく。

 私たちが暑くも寒くもないと思う、いわば快適な状態は、気温と皮膚温度のバランスが取れた状態にあるときだ。本書によると、素っ裸の人を部屋に入れて測定した場合、男女の差はあるものの、快適な状態の気温は「21~37℃」で、体温調節における体の反応が最小に抑えられたエコな温度環境だという。

 本稿で引用・紹介したのはもちろん本書のごく一部の内容だ。実際にはこれらのほか、動物から学べる暑さ対策や、熱中症の話など、テーマも多岐にわたる。もはや異常気象と言われても驚かなくなったほど昨今の変化は著しい。これから始まる厳しい夏を乗り切るために、体温と気象の関係を本書で学んでもらいたい。

文=カネコシュウヘイ

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