人が家畜となる《ニンゲン農場》に迷い込んだ父娘の運命――「弱肉強食」の原理を思い知る1巻完結マンガ『動物人間』

マンガ

更新日:2023/6/29

動物人間
動物人間』(岡田卓也/白泉社)

 あなたにとって恐ろしいものとは何だろう? 考えてみてひとつ思いつくのは「当たり前が当たり前でなくなること」だ。当然そうであるべき状況や価値観が揺らいだとき、人は根源的な恐怖を感じるのではないだろうか。なぜなら当たり前の状態の思考のままでは、解決策が見いだせないからだ。その場面になったとき誰もが皆、簡単には切り替えられず、パニックに陥ってしまうのではないだろうか。

動物人間』(岡田卓也/白泉社)はショッキングな恐怖マンガだ。そのキャッチコピーは“ファーム・スリラー”。物語はある農場での恐ろしい出来事を描いており、その根幹には「悪夢のような逆転構造」があったのだ。

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恐怖! 人が家畜となる“ニンゲン農場”に迷い込んだ親子の運命

 ある親子が自動車事故にあったところから物語は始まる。2人は気絶している間に見知らぬ村に保護される。目覚めた彼らの前には、二本足で立って言葉をしゃべる鹿や豚などの動物たちがいた。親子は村の人々が着ぐるみをかぶって、自分たちをからかっているのだと思い込んだ。だが、動物の姿の不気味な集団の食事会に呼ばれ、彼ら自慢の“農場”を見せられた2人は、自分たちがとんでもない場所にやって来てしまったことを理解する。そこは、人が家畜として飼育されている“ニンゲン農場”だったのだ。

動物人間 5P
©岡田卓也/白泉社

 動物の姿をし、“農場”を営む彼らは着ぐるみなどではなく、人ならざる動物。いや、動物ならざる何かであった。ついに親子は最悪のおもてなしを受ける――。

動物人間 15P
©岡田卓也/白泉社

 家畜である動物が人間の立場にあるという「悪夢のような逆転構造」とその恐怖が執拗に描かれている本作のストーリーは、さらなる悪夢へ続いていく。

動物人間の正体は? 逆転構造の物語は揺るがない弱肉強食の原理で幕を閉じる

 2話以降は視点が変わり、“農場”の労働者である山猫人間のネロが登場する。彼は最近様子がおかしい。なぜかニンゲンを食べたいとは思わなくなっており、ネロのニンゲンを見る目が変わってきていたのだ。

動物人間 117P
©岡田卓也/白泉社

 彼はその理由を、村のリーダー・鹿人間のアーネストとの邂逅によって知ることになる。やがてネロは、自分の生まれた意味を理解し、ある行動を起こす。

動物人間 10-11P
©岡田卓也/白泉社

 父と娘の運命は? この村の存在意義とは? 動物人間たちの正体とは? あなたはきっと戦慄しながらもこの世界について知りたくなり、恐怖にかられながらもページをめくる手が止まらなくなるだろう。そして恐ろしさの先にある逆の逆をつくような展開に衝撃を受けるのだ。

 最後に本作を読んで考えさせられたことを書いておく。それは「弱肉強食」という自然界の原理は揺るがないということだ。弱い動物は強い動物に食べられ世界は成り立っている。

 人類はほぼ全ての動物よりも、強い。なぜなら1対1の力ではかなわなくても、人の高い知能で生み出したノウハウや科学技術で、どんな動物よりも上に立てるからだ。これが当たり前の状態だが「もし動物に自分たちと同程度かそれ以上の知能があった場合はどうなるのか」。これを本作は描いている。しかし、この物語の結末こそ、弱肉強食の原理がキーポイントになるのだ。

 ぜひ目を背けずに、ラストまで読んでみてほしい。そのときあなたは何を思うだろうか。

文=古林恭

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