「この世界は、どこかおかしい…」キノコに人類が支配された世界で、初めて女性と出会い、真実を知った主人公。ディストピア漫画『菌と鉄』

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更新日:2023/7/20

菌と鉄
菌と鉄』(片山あやか/講談社)

 世界はルールで成り立っている。それは物語においても同様だ。どんなにファンタスティックな世界にも独特のルールが存在し、世界の有り様が構築される。それは“秩序”とも言い換えられるかもしれない。

 でも、その秩序はいつだって正しいものなのだろうか。理不尽なルールに支配された世界で、しかし1ミリも疑問を抱くことなく生きるのは、洗脳だ。ただし、そこに生きる人たちは、それにすら気づけない。ルールを絶対的なものだと盲信し、まるで駒のように生きるだけだ。

菌と鉄』(片山あやか/講談社)で描かれるのは、まさにそんなディストピアである。世界は「アミガサ」と呼ばれる世界政府によって支配されており、人類は完全に管理されていた。定められたエリア内で一生を過ごし、日々、訓練に明け暮れる。毎日決まった食事を摂り、無駄な会話もせず、感情さえも命令通りに変える。そう、本作の世界で生きる人類は“駒”でしかない。

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 しかしながら、どんな世界にもイレギュラーは存在する。本作におけるそれは主人公のダンテ。彼は管理されることを嫌い、エリアの外に興味を持ち、食事にも訓練にも疑問を抱いていた。そしてそれは“危険思想の持ち主”と見なされ、ダンテはたびたび厳罰を受けるのだった。

 そんなダンテの日々に変化が訪れる。極秘任務によって、エリア外での戦闘を命令されるのだ。ターゲットとなる「エーテル」は、「アミガサ」に歯向かう反乱組織。テロ行為も厭わない彼らは世界における危険分子だ。ところが、「エーテル」を殲滅すべくエリア外に出たダンテは、そこでひとりの少女・アオイと出会い、世界の真の姿を目の当たりにする。

菌と鉄 P45

 アオイとの会話は、ダンテのなかにあった疑問を強固なものにしていく。

 なぜ、生まれてから死ぬまでひとつのエリアにいなければいけないのか。
 なぜ、わずかな栄養のみで働かされ、自由な会話も考えも許されないのか。
 なぜ「アミガサ」に従い、なぜ「エーテル」を憎まなければいけないのか。

 この世界は、どこかおかしい……。

 世界がおかしいことに気づいた瞬間、それこそがダンテの物語のスタートだ。疑問を抱くダンテが立ち上がり、世界に向けて反逆の刃を向ける姿は、まさにヒーローそのもの。しかし、立ちはだかるのは世界政府「アミガサ」。とてつもなく巨大な敵だ。もちろん、ダンテひとりの力では到底敵わない。ところが、ダンテには仲間が現れる。そう、敵の敵であった「エーテル」だ。そうして反乱組織の一員となったダンテは、支配された世界を変えるべく闘っていくことになるのだが……。

菌と鉄 P70

“俺が世界をぶっ壊してやる”

 真っ直ぐなダンテの言葉には、すべてが込められている。これまで虐げられてきたことへの怒り、理不尽な状況への絶望、そしてそれでも捨てきれない希望。すべてを込めて闘う覚悟を決めたダンテは、本当に世界をぶっ壊せるのか。その先には、理不尽なルールのない自由な世界が待っているのか。イレギュラーな存在だったダンテが、一歩ずつヒーローになっていくさまは、きっと読者の胸を熱くさせるだろう。

文=イガラシダイ

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