赤ちゃんパンダは「1匹」? 「1頭」? NHKのエキスパートが答える、ことばのお悩み相談室

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/7

NHKが悩む日本語
NHKが悩む日本語』(NHK放送文化研究所/幻冬舎)

「解答」と「回答」って、どう使い分ける?

「水道管が凍る」は間違い?

 NHK放送文化研究所(通称・文研)には、日々こんな質問が寄せられるという。全国の放送局から、時には生放送の数十分前に電話がかかってくることも。それに答えることばのお悩み相談室こそが「NHK文研用語班」だ。このチームは、各地の放送局や視聴者からのことばにまつわる相談に必ず答えを見つけ出す。まさに、ことばのエキスパートたちだ。

 そんなことばの専門家たちが解決してきた疑問の数々をまとめたのが『NHKが悩む日本語』(NHK放送文化研究所/幻冬舎)。読んでみて、特に気になった疑問と答えを紹介しよう。


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「解答」と「回答」、答えはどっち?

 クイズ番組で、出演者が答えを考えている間に「カイトウ中」とテロップを出したい場合、「解答」と「回答」のどちらを使えばいいだろうか。日常生活でもアンケートなどで出合うことの多い「カイトウ」ということば。確かに使い分けに悩んでしまう。

 文研の答えは「クイズ番組なら“解答”が適している」とのこと。ポイントは正解があるかどうか。クイズのように正解を探して問題を解くものは「解答」。大喜利のような決まった答えがないものは「回答」とすると、しっくりくるはずだ。

 しかし実はどちらでも間違いではないという。番組制作においてNHKが大切にしているのは、それぞれの番組に合ったことばで、分かりやすく伝えること。多くの人に違和感なく伝えるために、番組によっては「カイトウ」ではなく「答え」など、簡単なことばへの言い換えを勧めることもある。ことばの使い分けに悩んだら、別の分かりやすいことばがないか考えてみるのは日常会話でも使えるテクニックだ。

赤ちゃんパンダは「1頭」?「1匹」?

「上野公園のシンシンが、2“頭”の赤ちゃんを出産しました」という、うれしいニュース。しかし別のニュースでは「2“匹”のパンダがじゃれあっています」と伝えている。パンダの数え方に決まりはないのだろうか?

 NHKでは、パンダの数え方を状況によって使い分けている。動物は「匹」で数えるのが基本。だが、人間よりも大きな動物は「頭」を使う。したがって、大人のパンダは「1頭」。生まれたてのパンダは手のひらサイズなので「匹」だが、誕生のニュースでは2つの理由から「頭」を使ったという。

 ひとつめの理由は、動物園の発表が「頭」であったこと。もうひとつは、取材現場の判断だ。パンダは成長が早く「匹」から「頭」に切り替えるタイミングが難しい。そのため、はじめから「頭」にしたそうだ。

 親子のパンダを紹介するとき、分かりやすくするため「頭」で揃える。子パンダだけなら、可愛らしい印象を伝えるために「匹」を使うなど、臨機応変に判断している。パンダのニュースが流れたときには注目してみよう。

「水道管が凍る」は、間違い?

 冬場、「水道管が凍る」と耳にする。でも、実際に凍るのは水道管ではなく、中を流れる水。それなら「水道管が凍る」という表現は間違いでは?という質問が文研に寄せられた。確かに正確とは言えないような気がしてくる。

 気になる文研の回答は「間違いではない」。例えば「テレビを見る」を正確に表現すれば「テレビでテレビ番組を見る」だ。しかし、そんな言い方をする人はいない。テレビ番組を「テレビ」と置き換えても伝わるため、省略して表現する。これは日本語の表現として大切なもの。文研では、ことばの厳密さだけではなく、日本語として馴染みがあり、分かりやすいかどうかも検討して答えを出している。

 もちろん、よく使われていても誤用の場合もある。アナウンサーの発言やテロップに間違いがあると視聴者から質問のメールが届くことも。こうしてNHKでは、エキスパートの知恵を頼りに、常に細心の注意を払って番組が制作されているのだ。

 本書は13人のNHK文研用語班メンバーが執筆したコラムをまとめたもので、巻末にはメンバーのプロフィールも掲載されている。日々変わることばを研究しているだけあって、さまざまなことに興味を持っている人たちばかりだ。彼らの人柄を知り、NHKで流れることばに目を向ければ、今までと違った面白さが感じられるはずだ。

文=冴島友貴

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