「歌のお姉さん」が大好きな怪人?敵を皆殺しにしながら、あくまで人間社会のお菓子やおもちゃを楽しみたいアクションコメディ
公開日:2023/7/28

未だかつて、こんなにも可愛らしい“怪人”がいただろうか。彼はその響きとは裏腹にとてもピュアで、人間社会に興味津々で、隣人たちと仲良くしようとする。「歌のお姉さん」や甘いもの、クマのぬいぐるみが好きで、とにかく素直。そう、その様子を見ているだけでほんわかさせられてしまう。そんな怪人がいるだろうか!
これは『東京怪人ラプソディ』(杉戸アキラ/ヒーローズ)の主人公である〈八郎〉のことだ。前述した特徴を持つ八郎の見た目は、なかなかハンサムな青年だ。バイト先の先輩からも好意を寄せられるほどには見た目が整っており、おそらくモテるタイプなのだろう。しかし、それは人間に“変身”しているときの姿の話であり、彼の正体は “怪人”なのだから、ややこしい。

本作の世界には人間の他に「フィアー」と呼ばれる怪物たちが存在する。ときに悪鬼や悪霊、ミュータントなどとも呼ばれるそれらは、人に死と恐怖を与えることを快感とする生き物であり、決して人間と相容れることがない。事実、この世界には「フィアー」を退治することを目的とした「恐怖体牽制殲滅部隊アンビリーバボー」が存在する。彼らは人類を守るため、日夜「フィアー」と闘っているのだ。

……しかし、そんな話は八郎にまったく関係がない。八郎はマッドサイエンティストの手によって、5年前に生み出された。目的はもちろん、人間社会を破壊すること。ところが初めて人間界を訪れた八郎は、そこで口にしたアイスクリームの美味しさに感動し、以降、人間界の楽しさに魅せられてしまう。そして怪人であるにも拘わらず、人間たちに紛れて暮らすことを決意するのだ。そう、すなわち本作は、まだ5歳児である怪人・八郎が、四苦八苦しながら人間社会を謳歌していくコメディである。


怪物たちが身近に存在するという世界観自体は重々しく感じられるかもしれない。しかしながら、なによりも八郎が愛らしく描かれているので、作品全体の雰囲気はとても軽やかでコミカル。町のおばあちゃんと交流したり、「アンビリーバボー」たちの活躍に胸を熱くしたりする八郎を見ていると、まるでいたずらっ子な幼稚園児を見ているようだ。
一方で、骨太なエピソードも盛り込まれる。マッドサイエンティストである父親との確執や、人間を襲うフィアーとの闘いなどは、本格アクションマンガさながら。コミカルとシリアスの塩梅が絶妙なので、読者は飽きることなくストーリーを追いかけられるだろう。
第1巻のラストでは、本来は敵対関係にある「アンビリーバボー」となんと友達(?)になってしまう始末。いやもうこれ、どうなってるんだ! ……なんてツッコむのも野暮なので、ここはひとつ、異色の怪人・八郎がどこまで人間社会に溶け込めるのかを見守るしかない。果たして、恐怖の5歳児はみんなと仲良くできるのか。叶うならば、人間と怪人という枠を越えて、八郎がみんなに愛されるといいなぁ。
文=イガラシダイ

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