「こんな馬鹿を四六時中警護しなくちゃいけないとは…」天使顔毒舌騎士×内気な姫の脱引きこもりラブコメ、開幕!

マンガ

公開日:2023/7/21

引きこもり姫と毒舌騎士様
引きこもり姫と毒舌騎士様』1巻(酒井ゆかり/白泉社)

 世の中に「ギャップ萌え」という言葉があるように、印象と実態のズレが生み出すギャップは人の心をときめかす。けれども天使と評判の憧れの相手の本性が、超毒舌男だったとしたら…? 酒井ゆかり氏の『引きこもり姫と毒舌騎士様』1巻(白泉社)は、そんな毒気と甘さのギャップがなんともクセになる、キュートなラブコメだ。

 フェリモール王国の第一王女・ラスティは、人と関わるのが苦手な引きこもりだった。そんな王女の護衛騎士として任命されたのは、騎士団の若きエース・エドワード。甘いルックスと優しい性格で民衆からも大人気の彼にラスティも密かに憧れており、窓からエドワードの姿を眺めてはため息をこぼしていた。

引きこもり姫と毒舌騎士様

 ところが彼の天使のような顔は、あくまで外面だけ。「こんな馬鹿を四六時中護衛しなくちゃいけないとは…甘い顔をし続けるのは無理ですね」と、ラスティの前で態度を豹変させ、以後も彼女に毒舌を繰り出していくのであった。

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引きこもり姫と毒舌騎士様

引きこもり姫と毒舌騎士様

 エドワードがラスティの引きこもりを改善させようとするのは、護衛騎士の任を命じた王妃の期待に応えるため。その功績を足がかりにして、王国騎士団の騎士団長になる野望を叶えるのだという。天使という外面を被った悪魔の言動に、ラスティは翻弄されていくのだが…。

 ラスティは、10年ものあいだ家族以外とは会話をしていないガチの引きこもりだ。エドワードはそんな彼女の振る舞いに毒舌を浴びせながら、外の世界へ連れ出そうとする。エドワードがラスティにかける言葉は厳しく容赦がないが、物語が進むにつれて、その毒舌の裏に秘められた一途かつ真摯な思いが明かされていく。

 騎士団長になるためにと表向きは言いつつも、エドワードの本意はラスティに尽くし、彼女を守ることにあった。ラスティは覚えていないのだが、幼い頃の二人は顔見知りで、その時に彼女にかけられた「この国一番の騎士になって」という言葉や思い出が、今のエドワードを支える原動力なのである。内心ではラスティを大切に思いながらも、手段を選ばないフリをして彼女に仕えるエドワードの本心を知るにつれて、その不器用さがなんともいじらしくなる。

引きこもり姫と毒舌騎士様

引きこもり姫と毒舌騎士様

 一方のラスティは、憧れの騎士様という幻想を一度は打ち砕かれながらも、毒舌の合間にときおり顔を出す甘い言葉や優しい態度に振り回されてしまう。だが毒舌の裏に隠された彼の思いにはまだ気づいておらず、過去の出来事についても思い出せてはいない。ツンデレ騎士と無自覚な姫のじれじれとした関係は、本作の見どころだ。ラスティの16歳の誕生日を祝う誕生パーティや、午餐会への出席、城下町へのお忍びの外出など作中にはさまざまなイベントが登場するが、中でもラスティが風邪をひいてエドワードが看病する第4話は忘れがたい。普段よりも弱気なエドワードの姿や照れる顔など、より素の表情が楽しめるエピソードだ。

引きこもり姫と毒舌騎士様

 幼い頃のラスティはお転婆なお姫様だったが、さまざまな事情が重なった結果、人と接することを恐れて引きこもりになってしまった。しかし、活発な性格が根っこから消えてしまったわけではない。賊に囲まれたエドワードを守るために「王女パンチ」を繰り出し、彼の手を取って一緒に窓から飛び降りるなど、時として大胆な行動力を発揮するのだ。そして、彼女のそんな一面を見るたび、エドワードはかつて自身が憧れていた幼い姫の姿を思い出さずにはいられない。怯えながらも少しずつ外の世界へ歩み始めた引きこもりの姫と、毒舌の奥に優しさを秘めた騎士。二人が踏み出す次の一歩を見守りたい。

文=嵯峨景子

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