オタクヴァンパイア、最推しそっくりの人間に出会う! オタクを罵りヴァンパイアを嫌う男子大学生×ニートヴァンパイアのラブコメ『推しに甘噛み』

マンガ

公開日:2023/7/21

推しに甘噛み
推しに甘噛み』(鈴木ジュリエッタ/白泉社)

 ヴァンパイアといえば、夜の闇にまぎれて人を襲い、首筋に牙をたてて血を吸った人間を不老不死の仲間にしてしまう、人外の存在。古来、多くの小説やマンガで、陰を背負う者として、おそろしげに、あるいは官能的に描かれてきた。だが、鈴木ジュリエッタのマンガ『推しに甘噛み』(白泉社)は一味違う。

 ドラキュラと同じルーマニアに生まれ育った、生粋のヴァンパイアである主人公のヒナは、決して人の生き血をすすろうとはせず、通販で買ったパック詰めの血だけを栄養に生きている。しかも30年間、一度も部屋から出てこないという生粋の引きこもり。そんな愛娘を心配して、父親(もちろんヴァンパイア)が差し入れたのが「ヴァンパイア✟クロス」という日本のアニメDVDだ。この作品がヒナの心に突き刺さり、竜須崎マオというキャラにドはまり。コラボグッズにイベント、聖地巡礼、二次創作。ネットの海からあらゆる情報を摂取して沼に落ちた彼女は、愛のままに来日し、一人暮らしをはじめるのだが、隣に住む男子大学生・甘夏が、アニメから抜け出してきたかのようにマオそっくりの風貌だったのである。

advertisement

推しに甘噛み

推しに甘噛み

 最推しそっくりの人間に出会って、正気でいられるオタクはいない。きもいと罵られながらも、なんやかんやと面倒見のいい甘夏とヒナは距離を縮めていく。しかも甘夏は、なんだかとても甘くていい匂い。それもそのはず、甘夏はヴァンパイアにとって極上の血の持ち主で、ヒナと出会うより前に、たちのわるいヴァンパイアに襲われていたのだ……。

推しに甘噛み

 という、ある意味相性抜群とも天敵ともいえる二人のラブコメ。オタクを罵り、ヴァンパイアを嫌悪しながら、ヒナの正体を知ったあとも、放っておけば汚部屋で引きこもるだけの彼女の面倒をなんだかんだみる甘夏。そんな彼のツンデレっぷりもいいのだが、なんといってもヒナがかわいくて、そして最高にカッコいい。ふだんはぽやんとしていて、推し活以外に興味がなく、誰かを傷つけるどころか簡単に騙されてしまいそうな彼女。だがひとたび本気で怒ると、ヴァンパイアの本領を発揮して、他を圧倒的な力でねじふせる。ただ強いだけでなく、めちゃくちゃ高貴なところも、よい。怒るのはいつも、甘夏をはじめとする誰かが傷つけられそうになったときで、これぞ本当のノブレス・オブリージュだという感じが痺れる。

推しに甘噛み

 引きこもりの原因はわからないが、人間社会で生きていたのだとしたら、友達もいない彼女がずっと孤独だったことは想像にかたくない。そんな彼女が、推し活をきっかけに閉ざされていた扉をひらき、「好き」と「楽しい」に満ちた世界を知っていく。たとえひとりきりでも、世界はこんなにも喜びに満ちているのだと知った彼女が、甘夏を通じてさらに世界を広げ、その先で思いがけない友人を得ていく姿が尊い。いつまででも読んでいたくなる。

 7月20日発売の第2巻では、最強と思われていたヒナも太刀打ちできない敵があらわれ、波乱はまだまだ続きそうである。

推しに甘噛み

文=立花もも

あわせて読みたい