インカの黄金、カタン、カルカソンヌ……ボードゲームで楽しく学ぶ!ビジネスにも役立つ「ゲーム理論」入門書

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公開日:2023/7/20

ゲーム理論の〈裏口〉入門 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法
ゲーム理論の〈裏口〉入門 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法』(野田俊也/講談社)

「ゲーム理論」という名の学問がある。経済学や経営学、社会学など、幅広い学問に影響を及ぼした数学理論のひとつで、学べば、ビジネスにも役立つ視点が身に付けられるらしい。「いま自分にはどのような選択肢があるか」「自分から見えている情報は何か」「相手から見えている情報が何か」「ゲームの目的は何か」「それを最大化するためにはどのような選択を行うのが最適か」……。そんな風に、自分の利益をどうしたら最大化できるのかを考えるゲーム理論の思考過程は、仕事をする上でも間違いなく有用だろう。

 かくいう私は、大学生の頃、「名前からして面白そう!」と、その講義を取ったことがある。だが、結果、すぐに挫折してしまった。根っからの文系の私からすると、なかなか難しい。「ゲーム理論という名前なのだから、ゲームするみたいに遊びながら学べればいいのに」と何度思わされたことか。いや、多分「ゲーム理論」を学ぼうとする人の多くがそう思うのではないだろうか。

 そんな人たちのための本が『ゲーム理論の〈裏口〉入門 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法』(野田俊也/講談社)。ボードゲームで遊びながらゲーム理論を学ぶことができる、ゲーム理論の入門書だ。ボードゲーム大好きという人も、プレイしたことがないという人も、この本を読みながらボードゲームで遊べば、「相手の手の内を読み、自分の利益の最大化を考える」ゲーム理論の考え方を理解できるだろう。何より「楽しく学べる」ということが、なんともありがたい。

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 将棋、囲碁、麻雀、○×ゲーム、カウントゲーム、テキサスホールデム、カタン、インカの黄金、コリドール、カルカソンヌ、キャントストップ ……。ページをめくれば、題材となっているのは、有名なボードゲームばかり。ボードゲームの豆知識を知るような感覚で、読み進めることができる。

 たとえば、2006年に初版が発売された人気のボードゲーム「インカの黄金」。古代遺跡を探検し、多くの財宝を持ち帰ることを目指すこのゲームでは、プレイヤーたちは、探索が失敗に終わるリスクを取りながらも財宝を求めて「進む」べきか、それまでに確保した財宝を自分のものとするために「戻る」べきかの選択を迫られる。ボードゲーム初心者としては、このゲームは、どんなカードを引き当てるかどうかにかかってくるギャンブル要素が強いものだと認識していたが、ゲーム理論に基づけば、どうやら違うらしい。実は、「インカの黄金」は、他のプレイヤーたちとの交渉がカギとなるゲーム。相手が強硬に出てくるのであれば、自分は譲歩するべきであり、相手が譲歩するなら自分は強硬に出るべきだというのが、ゲーム理論によって導き出される合理的な行動。自分がどういう行動を取ろうとしているのかを相手に隠すのではなく、むしろ、その行動を明らかにした方が、リスクを避けることができるのだ。

「どうして賭け金はゲームを面白くするのか」「相手が隠している手札はどうやって読み取ればいいのか」「ブラフはどう効果的に使えばいいのか」「このゲームでは、相手と交渉すべきか、それとも裏切るべきなのか」……。この本を読むと、ボードゲームのプレイング技術も向上しそうな気がしてくる。そして、何より、今までただ何となく遊んでいたボードゲームを、こうやってゲーム理論で分析できるということが面白くて仕方がない。一度は挫折したゲーム理論だったが、この本ならば、その思考過程が自然と身に付けられそうだ。他の書籍でゲーム理論の応用を学ぶ時も、この本が土台になるだろう。

 ゲーム理論は、ボードゲームだけでなく、料金体系の設計や、信頼の構築、共有リソースの管理、市場設計など、現実の問題にも応用できる学問。あなたもこの本でビジネスにも役立つゲーム理論を遊びながら学んでみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ