あの和歌を現代風にしてみた→「くんのかい? こんのかい! こんの? くんの? いや こんのかい!」令和言葉・奈良弁で訳した万葉集が面白すぎる

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/23

愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集
愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集』(佐々木良/万葉社)

 いきなりだが、万葉集に収録されている次の和歌を、今風の若者現代語に訳してもらいたい。

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【原文】

梓弓 引きみ緩へみ
来ずは来ず 来ば来そをなぞ 来ずは来ばそを

あずさゆみ ひきみゆるへみ
こずはこず こばこそをなぞ こずはこばそを

(巻十一 2640番歌)
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 これは、女の子のハートを射抜きたい恋する男の、女の子が来そうで来ない、やきもきした気持ちを歌っている。今風の若者現代語に訳すと、例えば次のようになる。

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【訳文】

愛の弓で
君のハートを狙ってるでぇ
くんのかい? こんのかい!
こんのかい? くんのかい!
くんの? こんの?
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 とてもユニークな訳だ。これは、テレビや新聞でも話題になった、令和言葉・奈良弁で訳した万葉集『愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集』(佐々木良/万葉社)に収録されているもの。ワンチャン、〇〇しか勝たん、奈良の大型ショッピングセンター・ならファミリー、奈良のご当地ヒーロー・ナライガーなどを用い、難しそうな万葉集を若者にも読みやすくしている。

 なぜ、若者語なのか。本書によると、根拠がある。万葉集は数々の現代語(標準語)に訳されているが、それは現代の首都「東京」の言葉である。しかし、万葉集の時代の首都は奈良であり、標準語は「奈良」の言葉であったはずだ。そして、万葉集のおよそ半数を占めるのが恋歌であり、本書は令和の今まさに恋をしている若い世代が実際に使っている奈良弁での若者言葉で訳しているのだ。

 ちなみに、奈良弁と関西弁はどう違うのか? 本書によれば、奈良弁は、まろやかな関西弁であり、大阪弁のようにコテコテでもなく、京都弁や神戸弁のような独特の表現が少ない印象だ、と説明している。

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 さて、冒頭で紹介した和歌の次ページで紹介される和歌は、ユニークさはそのままに、さらにシンプルだ。和訳版から紹介する。

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【訳文】

くんのかい?
こんのかい!
こんの?
くんの?
いや こんのかい!
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原文は、
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来むと言ふも 来ぬ時あるを
来じと言ふを 来むとは待たじ
来じと言ふものを
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 である。

 この他、

【原文】「さのかたは 実になりにしを 今さらに 春雨降りて 花咲かめやも」
【訳文】「うち人妻やのに 付きあえるわけないやん ワンチャンないで」

【原文】「ますらをや 片恋せむと 嘆けども 醜(しこ)のますらを なほ恋ひにけり」
【訳文】「イケメンの俺が 片想いなんかするかよw っていってたけど したわwww」

 など、189ページにわたって、令和言葉・奈良弁で訳した万葉和歌がひしめく。

 本書は、若者から「これなら読める」「共感できる」「ツイッターを見ているみたいで面白い」などの声が寄せられているほか、全国中学校の教師などからも好評を得ている。

 夏の暑さを吹き飛ばすのにピッタリの、爽快な一冊だ。

文=ルートつつみ (@root223

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