村には毎年、巨大な身体の一部が降ってくる…。神々に対して無力な人間と、その現実を突きつけられる恐怖を描く『領怪神犯』

マンガ

公開日:2023/7/28

領怪神犯
領怪神犯』(木古おうみ:原作、足鷹高也:漫画/KADOKAWA)

 すべての物事には因果や摂理が存在し、それを正しく理解さえすれば問題の「解決」に至る。ぼくら人間はついそう考えてしまいがちだ。それは物語の世界においてもイコール。不可解な事象が発生したとしても、主人公たちはその理由や原因を追究し、どうにか終息を図ろうとする。しかし、そもそもそんなことは無駄なことである、と示す作品がある。

領怪神犯』(木古おうみ:原作、足鷹高也:漫画/KADOKAWA)。本作はそんな「どうしようもない恐怖」を読者に提示するホラー漫画だ。同名タイトルの原作はWEB小説サイト「カクヨム」で開催されたコンクールの〈ホラー部門〉で大賞、「ComicWalker漫画賞」をダブル受賞した作品。それがこのたび、コミカライズが登場した。

 本作の主人公は公務員の片岸と宮木。クールな印象のある先輩男性の片岸と、あっけらかんとした明るさを持つ後輩女子の宮木はまるで対照的な印象を持つ。そんなふたりは「領怪神犯特別調査課」に所属する調査員だ。この「領怪神犯」とは人知を超えた存在――善悪を超越し、人間の日常に亀裂を生む、いわゆる「神」と呼ばれる存在とその奇跡のことである。片岸たちはさまざまな土地を訪れ、領怪神犯による事象を調査している。

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領怪神犯

 本作で描かれる領怪神犯は、実に不可解なものばかり。たとえば第一章で訪れた村で起こっているのは、空から「巨大な身体の一部が落ちてくる」という事象だ。それが発生したのは1997年から。神への感謝を伝える村祭りの最中、近くの小学校から大きな音がした。驚いた村人たちが駆けつけると、小学校の25メートルプールいっぱいに収まった、巨大な片腕があった。以来、毎年、大きな身体の一部が村のどこかに降ってくるようになったという。

領怪神犯

 現時点で確認されているのは、鼻、右腕、膝、歯や毛髪、目玉など……。どうしてそんなものが空から降ってくるのか。片岸と宮木は早速調査を開始する。しかし、そう簡単に答えは見つからない。土地神の怒りを買ったのかもしれないし、村人たちがなにか余計なことをしたのかもしれない。やがてふたりは、身体の一部を保管しているという小学校へ案内される。そして気付く。落ちてきた身体の一部は土に戻りたがっている。そんな神の願いが叶ったとき、村は大変なことになってしまうのではないか。

 ストーリーテリングの王道で言うと、この後、片岸たちの活躍によって村の大惨事は免れることになるだろう。しかし本作では、そんな王道の展開が描かれない。片岸は言う。神に対して人間ができることは、祈ることだけだ、と。そう、本作では不可解な事象の解決が描かれない。むしろ描かれるのは、そういったものに対して人間はいかに無力な存在なのかという現実だ。

領怪神犯

領怪神犯

 人によってはそれを「絶望」と受け止めるかもしれない。しかしながら、ご都合主義的に描かれない物語だからこそやけにリアルであり、それが言いようのない恐怖を生み出しているのだ。そもそも、人知の及ばない存在を人間がどうにかしようとするのが無理な話である。人間にできることは、事実を受け止め、ただ祈ること――。それはあまりにも無力で、恐ろしい。それを淡々と描くさまはまるで、この地球を支配しているのは自分たちであると勘違いした人類に対するカウンターパンチのようでもある。と受け止めるのは、少々考えすぎだろうか。

 第二章以降も、実に奇妙な領怪神犯が取り上げられる。あるはずの内臓が、死亡後にごっそりと抜き取られてしまう現象。人魚伝説を信奉し不老不死の夢を見続ける人々。それらに直面し、片岸と宮木はどんな結論を出すのか。「解決してくれてスッキリ!」では終わらない異色のホラー作品『領怪神犯』を通して、どうしようもない恐怖を味わってもらいたい。

文=イガラシダイ

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