他人に厳しく自分に甘い先輩社員に我慢の限界! 「棚上げ」人間に待ち受けているのは…『ワタシはいいの、ワタシはね』

マンガ

更新日:2023/8/29

ワタシはいいの、ワタシはね
ワタシはいいの、ワタシはね』(nev/DPNブックス)

 人には厳しく自分に甘い「棚上げ」人間という人種が、残念ながら世の中には一定数存在する。この原稿を書いているライター自身の経験から「棚上げ」人間の特徴を、いくつか挙げてみたい。

1.第一印象は過剰なほど良い
2.笑顔できついことを言う
3.感情にむらがある
4.サンドバッグにできそうな相手を的確に見極める

 これらに当てはまる人物がもし身近にいたら、できるだけ関わりあいにならない方がいい(いえ、ならないで!)。だけど不運にも接触せざるを得ない状況になってしまったら……ぜひ、『ワタシはいいの、ワタシはね』(nev/DPNブックス)を参考にしてほしい。

advertisement

本作品を試し読み

 憧れの家具メーカー、IWAに就職した美波は、指導係の先輩社員・八木の凛とした佇まいに羨望を抱く。

ワタシはいいの、ワタシはね

 言葉選びがややきつく、厳しい態度をとることもある八木だが、それは仕事熱心で自分に期待をかけてくれているから。そう前向きに解釈して、彼女とうまくやっていけるよう奮闘する美波。だが八木は、そんな美波の人の好さにつけ込んで、どんどん意地悪かつ恫喝的な態度をとるようになってくる。

ワタシはいいの、ワタシはね

 そして美波は、八木がこれまで指導してきた新人社員が全員、会社を辞めていた驚愕の事実を知ってしまう……。

 ランチミーティングと称して経費での飲食、美波のプレゼン用企画の盗用、そして社内不倫。「棚上げ」人間の特徴を煮詰めたかのような八木の行動ひとつひとつに、読んでいてイライラしない読者がいるだろうか! そのイライラが最高潮まで高まった瞬間、ついに美波は立ち上がる。

「自分を棚に上げて、他の人を陥れて一方的に責めて……! 一度でもご自分の言動や行動を省みていただきたいです」

ワタシはいいの、ワタシはね

 これまでずっと我慢に我慢を重ねてきたからこその、反論が実に爽快だ。けれど美波が、このまま八木の言いなりになっていてはいけないと決意することができたのは、傍らで支えになってくれていた存在があったから。それは中途入社したコンサルタントの荒川だ。

 先輩・後輩社員というパワー関係が絡まない立場である荒川は、理不尽な八木の仕打ちに耐えている美波を常に見守っていた。そして、耐えるばかりでは何も変わらない、と自分が美波を助けるだけではなく、美波自身も動かなければならないと優しく諭す。

ワタシはいいの、ワタシはね

 そのサポートが美波を奮い立たせ、自分でも気づいていなかった己のなかにある強さに気づかせてくれる。

 ……と、ここまででも充分に読みごたえがあるのだが、本作がさらに加速するのは第二部にあたる新章以降、八木の「婚活編」である。

 美波の逆襲に敗北を喫した八木だが、彼女もまた、同級生たちと繰り広げてきた女同士のマウンティングでボロボロになっていた事実が明かされる。とはいえ相変わらずの「棚上げ」キャラなので、まるで同情する気になれない点はさすがというか、これはこれで一本芯が通っているというべきか。

 主人公は美波から八木へとバトンタッチされるが、まるで共感できない、それでいて目が離せないという、前代未聞のヒロイン像を構築している。

 ある意味でパワフルな八木の活躍(?)を、マンガ越しに見守っていきたい。もし実際にそばにいたら、この堂々たる「棚上げ」ぶりには……耐えられそうにない。

文=皆川ちか

あわせて読みたい