『ドラゴンボール』編集・鳥嶋氏が説く“わかりやすさ”の正体。プロ漫画家志望者と漫画読みのための至高の一冊『Dr.マシリト 最強漫画術』

マンガ

更新日:2023/8/10

Dr.マシリト 最強漫画術
Dr.マシリト 最強漫画術』(鳥嶋和彦/集英社)

“なぜ彼らはプロの漫画家として、成功できなかったのだろうか?
最大の理由は、彼らの描く漫画が読みにくかったからである。”
『Dr.マシリト 最強漫画術』より引用

 こう言い放つのは、Dr.マシリトの愛称で知られる漫画編集者・鳥嶋和彦氏だ。

 編集者として「読みやすくおもしろい漫画」を作るため、鳥嶋氏が用いてきたのは「鳥嶋メソッド」と呼ばれる方法論である。漫画に近づきたい人、漫画家を目指す人ならば是非知っておきたいその「鳥嶋メソッド」を凝縮した著書『Dr.マシリト 最強漫画術』(集英社)が、7月21日に発売された。

 鳥嶋氏といえば「週刊少年ジャンプ」の編集者として『ドラゴンボール』『電影少女』『ダイの大冒険』などをヒットに導き、ジャンプ黄金期を支えてきた漫画界の大御所だ。

advertisement

 そんなレジェンド級の編集者が「プロ漫画家になるための教科書」として世に送り出したのが本書である。

 漫画制作のための指南書は数あれど、プロ漫画家になるための知識が伝えられることはほとんどない。漫画で商売すること…すなわち社会的責任のなかで漫画を描くとはどういうことなのか。プロ漫画家として必要なマインドにまで言及されている本書は、超ヒット作と共に歩んできたレジェンドからの厳しくもあたたかい言葉であふれている。

 プロの漫画家に求められるのは「読者視点を大切にした分かりやすい作品を描くことだ」と鳥嶋氏は語る。

 序盤では『ドラゴンボール』ら人気作品の紙面をたっぷりと引用しながら、読者を意識したキャラクターの作り方やコマの配置法などが語られていく。

 それらの作品がなぜ読みやすいのか、なぜ心惹かれるのかといった、自分がなかなか言語化することが難しかった心の中にある「推しの理由」が丹念に解説されており、作品への理解を深めたい「読み専」の漫画ファンも楽しめるのが嬉しいポイントだ。ブログやSNSで感想を発信する時の着眼点のヒントにもなるだろう。

 本書がさらにユニークなのは、編集者との付き合い方に始まり、編集者の仕事内容、漫画を取り巻く未来予想図まで、編集者目線で漫画ビジネスについて語られている点にある。共に作品を作り上げていく編集者の考えを知ることで、プロ漫画家として活躍する自分の姿をリアルに思い描けるかもしれない。読後に得られる気付きとイマジネーションは、漫画好きにとってきっと掛け替えのない宝になるだろう。

 持ち込み志望者へ向け、「編集部への電話のかけ方」から丁寧に解説するなど、本書のサポートは手厚い。些細なこと、と思われるかもしれないが、はじめの一歩の踏み出し方がわからずに夢を諦めてしまう人は大勢いる。才能ある漫画家たちが編集者と良い出会いを果たせるように、という鳥嶋氏の切実な思いが伝わってくる。

 鳥嶋氏と実際にタッグを組んだ、鳥山明先生、桂正和先生、稲田浩司先生との特別対談は全漫画ファン必見だ。『ドラゴンボール』『電影少女』『ダイの大冒険』連載当時の出来事をくだけたムードで語り合う一幕には、思わずほっこりしてしまう。

 鳥嶋氏によるぶっちゃけ話は対談以外にも随所に仕込まれているので、ぜひ隅々まで探してみてほしい。なかでも『ドラゴンボール』のアニメ化によってもたらされた当時のドタバタ劇には驚かされた。『Dr.マシリト 最強漫画術』はプロ漫画家志望者のみならず、「あの頃」に思いを馳せるファンにとっても必見の一冊になるはずだ。

文:ネゴト / あまみん

あわせて読みたい