ホテルで過ごす”おひとりさま”の休日。日常をアップデートし、次に行きたいホテルも見つかるマンガ『おひとりさまホテル』

マンガ

公開日:2023/8/13

おひとりさまホテル
おひとりさまホテル』2巻(まろ(おひとりさま。):原案、マキヒロチ:漫画/新潮社)

 日常からふと逃げ出したい、けれど旅をするほどの余裕もない。そんなときにぴったりなのがホテルステイ。コロナ禍で生まれたその発想が、街に人波が戻った今も定着しているのは、きっと誰もが、どんな世の中であっても、「逃げたい」という気持ちをどこかで抱えているからじゃないだろうか。マキヒロチさんの『おひとりさまホテル』(まろ(おひとりさま。):原案/新潮社)は、実在するホテルに宿泊する主人公たちを通じて、そんな気持ちをほんの少し解消してくれる、そしてちょっと(いやかなり)ホテルに泊まってみたくなるマンガである。

 マキさんはこれまで『いつかティファニーで朝食を』(新潮社)の朝ごはん、『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(講談社)の家探しを通じて、暮らしにとっていちばん大事なものは何か、を見つめ直す主人公たちを描いてきた。1日のはじまりをどんなふうに迎えるか、楽しいことばかりではない日常をどんな家で過ごしたいか、無意識に過ごしてしまう毎日の些細な瞬間を大切にすることで、いわゆる丁寧な暮らしとはまたちがう、日常に対する慈しみの視点をとりもどさせてくれるのだ。それに比べてホテルはずいぶん非日常のようにも思えるが、滞在を楽しむために自分には何が必要なのか、心をリセットできる空間とはどういうものなのか、自分を見つめ直すきっかけになるのは同じである。

おひとりさまホテル 1巻
『おひとりさまホテル』1巻より ©まろ マキヒロチ/新潮社

 主人公がひとりではない、というのもいい。中心となるのは、友人とルームシェアをしている31歳・塩川史香だが、ホテルをつくる会社に勤める彼女の、同僚である3人の男女の姿も描かれる。アートホテルが大好きな森島賢人(30歳)に、平日は家に帰らずさまざまなホテルを渡り歩いている中島若葉(28歳)。キム・ミンジ(28歳)は日本に来て10年の韓国人で、日本の文化を感じられるクラシックホテルが好き。好みもライフスタイルも異なる4人が紹介してくれるホテルは多種多様で、さらに『ティファニー~』と同じく実在するものばかりだから、端から行ってみたくなってしまう。

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おひとりさまホテル 1巻
『おひとりさまホテル』1巻より ©まろ マキヒロチ/新潮社

おひとりさまホテル 1巻
『おひとりさまホテル』1巻より ©まろ マキヒロチ/新潮社

 史香たちの日常は基本的には充実しているが、そこかしこに不安や孤独の芽はある。たとえば史香は既婚者である元恋人への想いを断ち切れず、森島は一緒に暮らしている恋人が同性であることを誰にも打ち明けられていない。若葉は家族からライフスタイルにとやかく言われがちだし、切ない片想いをしていることが2巻で明かされる。ミンジは、日本になじんでいるといっても、文化の壁を感じることは少なくない。だけどその、深刻ではないが心にちょっぴり影を落とす感情を、彼らは真正面から受け止める。そのために必要なのが、ホテルで過ごすひとりの時間なのだ。五感を刺激するホテルで、洗練されたおもてなしを受けることは、もしかしたら「自分を大切にする」感覚をとりもどすことに繋がるのかもしれない、とも本作を読んでいると思う。

おひとりさまホテル 2巻
『おひとりさまホテル』2巻より ©まろ マキヒロチ/新潮社

おひとりさまホテル 2巻
『おひとりさまホテル』2巻より ©まろ マキヒロチ/新潮社

 作中に登場するホテルをチェックしながら、いつか泊まってみたいリストに加え、自分には何が必要だろうかと考える。それだけできっと「逃げたい」気持ちはほんの少し和らぐし、次の週末、マンガを片手にホテルステイを実践すれば、日常がきっと、より自分らしいものに変わっていくはずだ。

文=立花もも


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