全女子の「言われたい…」がここにある!「花ゆめ」が贈る新作ファンタジーロマンス『風呼びのマカナ』

マンガ

公開日:2023/8/19

風呼びのマカナ
風呼びのマカナ』(柴宮幸/白泉社)

 『呪い子の召使い』で、ファンタジー&ラブロマンスだけじゃない読み所をいくつも持った前作が終わるやいなや『風呼びのマカナ』(白泉社)が始まった。ファンタジーだからこそ際立つ綿密な設定の上で、ディープな人間模様を描く柴宮幸氏の作品には、少女漫画という柔らかな輪郭の中に、成長や選択といった人生を味わうエッセンスが練り込まれている。

風を操る少女と風になる青年

 ある日、“風呼び”のマカナが助けたのは、とても珍しい、人の姿をした精霊“風の民”フーガ。彼は、自らをコントロールできず、長い間、風になることができなかった。そんな彼が自由に、そして風になれる方法はただ一つ。「風呼びとの契約」だったはずが、マカナは契約していなくてもフーガを呼ぶことができ、フーガは風になることができた。フーガは自分をマカナの眷属(けんぞく)にすること、そして契約を迫るが、マカナは眷属も契約も風の民の自由を奪うと頑として聞き入れないのだった……。

風呼びのマカナ

風呼びのマカナ

わたしたちの心に近いファンタジー

『風呼びのマカナ』は、ファンタジーでありながら、読者に極めて近いポジションにある物語だ。じれったくやきもきする男と女の関係、お互いの気持ちに気づかないもどかしさ。本作は紛れもなくボーイミーツガールであり、誰でも起きうる物語、ないしは起きてほしい物語であるがゆえ、読む人の心を離さない魅力を持っているのだ。

advertisement

 そうして読むと、断固として自分を曲げないマカナを自分に投影し、そしてなぜか少し恥ずかしくなってしまう。まだ青臭く、自分の生きてきた世界が全てで他の世界はないものと思っていたあの頃を思い出してしまうのだ。

「もっと外を見ていいんだよ」
「世界はそんなに難しくないし、難しくしているのは自分自身だよ」

 マカナに、言ってやりたくなる。それは勿論、青かったかつての自分にもだ。

 もちろんわたしたちに近いだけではなく、ファンタジー作品としての描写はしっかりと美しい。テーマになっている“風”の描写が心情とリンクして変化するのはもちろん、世界観を作り出す背景や服、装飾品、全てが丁寧に描き込まれていて、何回でも読み直してしまう。わたしたちに近いポジションにある物語が、ファンタジー世界と融合している。これが読者を惹きつける要素の1つになっているのではないだろうか。

契約に縛られたい

 作中のマカナは何度も「眷属を持たない」「契約はしない」という思いを口にする。「力を縛ることは風の民の自由を奪うこと」と感じている彼女にとって、「契約」は束縛を意味してしまう。だが、本作で描かれる「契約」とは必ずしもそうではなく、「人と風を繋ぐ事」と表現されるシーンもあった。

“風の民と対等な関係でいたい、真っ直ぐ向き合って声を聞こうとする
そんなマカナだから俺を呼べた 悪風の俺が惚れた唯一の風呼びだ”
1巻 第3話から引用

風呼びのマカナ

風呼びのマカナ

 だが、いつかマカナは、これを逃したら次にいつ出会えるか分からないと知っているフーガの気持ちに気づく。マカナもフーガも踏ん切りがつくととにかく強く、貪欲で、そして自分に正直になれる。そこにはオトナの余裕も駆け引きもない。マカナと一緒にいたい気持ちを真っ直ぐにぶつけてくる、フーガの言葉の一つ一つがガツンと心に響く。そんな彼や周囲の言葉を正面から受け止め、自身の信条を貫き、「眷属」を持つ従来の風呼びとはまた違った形の風呼びになる決意をするマカナ。その成長にもまた心が揺さぶられるのだ。

身動きできなかったあなたのための物語

 俺様&押しの強いフーガに押されまくり、タジタジになっているマカナ。二人の様子はラブコメ感満載でどこからどう見ても少女漫画だし、「あぁ、言われたい~」とキュンキュンする。かと思えば、二人の可愛らしいゆるいやりとりには思わず口角が上がってしまう。しかしあなたは、作品の裏に隠された成長に伴う選択といったテーマをやがて知るだろう。恋愛も仕事も家族も環境も、カタチにこだわると大事なモノを見落としがちだ。この作品は自らが作った枠にピッタリはまってしまい、身動きが取れなくなってしまった人に是非読んでほしい。

風呼びのマカナ

風呼びのマカナ

 マカナとフーガはこれから二人だけで旅に出る。村から出たことがないマカナが、目にするもの、出会う人をきっかけに新たな価値観に触れるだろう。たとえそれが、今までの自分では受け入れられなかったとしても、フーガと一緒にいることで、新たな視点を得て自分なりの答えを見つけていくだろう。知ることの大切さ、気づくことの重要さ。それらは言葉にならずとも成長に繋がることを誰もが知っている。マカナとフーガも、そして勿論あなたも。だからこそマカナとフーガが見いだす、「眷属」に囚われない二人だけの信頼のカタチをそっと追っていきたいと思うのだ。

 繋ぐもの。満たすもの。吹き抜けるもの。いつでも側にあるもの。見えないもの。

 今の時代のハイ・ファンタジーは力のメタファーである伝説の剣が主役ではなく、揺れ動く気持ちのメタファーとしての風が主役に躍り出た。その時代の変革を是非目にしてほしい。

執筆:ネゴト / そふえ

あわせて読みたい