美術界の巨匠たちはダメダメな恋愛ばかり!? ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ジャコメッティなど有名芸術家の「こじらせ恋愛」紹介本

恋愛・結婚

公開日:2023/8/29

こじらせ恋愛美術館
こじらせ恋愛美術館』(ナカムラクニオ/集英社)

 恋愛。くっついてみたり離れてみたり、悔しく苦い思いをしたり、と思えば素晴らしい夜があったり。老若男女のほとんど誰もが恋愛をこじらせる。……それが世界的に有名な芸術家も同じであったら?

 ナカムラクニオ『こじらせ恋愛美術館』(集英社)は、ダ・ヴィンチやローランサン、モネやミケランジェロといった美術史に残る有名芸術家10名の「こじらせ恋愛」を紹介した一冊である。ナカムラ氏によるイラストも豊富に収録されており、イラスト集としても楽しむことができる。

 ひとつエピソードを紹介しよう。身体を細長く伸ばした彫刻で知られるアルベルト・ジャコメッティは、48歳のときに22歳下のアネットと結婚する。しかし、50歳ごろに日本人の哲学者、矢内原伊作と出会い、この矢内原がジャコメッティの恋人であったのではないか……という説がある。NHK「日曜美術館」でフランシス・ベーコンが「ジャコメッティも私と同じ同性愛者であることを告白すればよかったのに……」と発言したというのだ。

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 矢内原は1954年秋からパリに留学し、インタビューのためにジャコメッティのもとを訪ねる。ジャコメッティは矢内原の端正な容姿と豊かな教養に魅了され、モデルを依頼する。72日間にわたったその制作で、二人は恋に落ちてしまった。しかし(これが奇妙なことなのだが)矢内原は、ジャコメッティの妻であるアネットとも不倫関係にあった。そして、(これがもっと奇妙なことに)その関係はジャコメッティ公認だったという。

 本書を読みながらジャコメッティの「こじらせ恋愛」の要点をまとめた。ど、どういうこと? こじらせすぎじゃない? 著者のナカムラ氏は、こうした数々のエピソードを集めるために、文献を全て読み、実際に現地に赴き、しつこく取材をし5年以上かけて書いたという。本書を書くにあたって選んだ10人の芸術家について、ナカムラ氏に話を聞いた。

「自分自身が、その作家が好きかっていうのが結構重要で……。本当に面白いよって言えるかどうか。それが最大のポイントだったなと思います。(恋愛エピソードが)面白くても作品がよくない、じゃなくて、本当に自分が面白いと思った人しか書かない。自分が本当に、心の底から震えた人っていう基準で書きました」

 芸術家の作品、そして彼らの「こじらせ恋愛」エピソードから、我々が感じ得るものはどのようなものだろうか。『こじらせ恋愛美術館』は、人間が心から恋愛に震え、それを創作に落とし込んだ命の深みを知ることができる一冊である。

文=高松霞

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