こぶとりじいさんの子孫が殺人事件に巻き込まれる…? 昔話の世界をミステリー仕立てに語りなおすシリーズ第3弾『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』

文芸・カルチャー

公開日:2023/8/25

むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。
むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』(青柳碧人/双葉社)

 誰もが知っている昔話の世界をミステリー仕立てに語りなおす、青柳碧人さんの小説「むかしむかしあるところに」シリーズ(双葉社)。第3弾となる『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』は、鬼で始まって鬼に終わる。

 第1話はかの有名なこぶとりじいさんの子孫たちを描いた「こぶとり奇譚」。殺人事件の犯人につけたはずのひっかき傷がこぶに残されていたということで、葱之進という男がとらえられるのだけど、彼いわく「このこぶはもともと芋三郎についていたもの。それを、祖先と同じように鬼からつけられてしまった。自分は犯人じゃない」と主張する。争点となるのは、こぶの授受が事件の前に行われたのか、それともあとだったのか。確認のため山に入っていった「私」は、今度は鬼の死体を見つけてしまう……。

 この、人の体の一部を奪ったり押しつけたりすることのできる、不思議な力をもつ鬼たちの存在は最終話の「金太郎城殺人事件」でもちらりと語られる。明確に登場人物の重なる「三年安楽椅子太郎」と「金太郎城殺人事件」だけでなく、「こぶとり奇譚」もまた世界観がつながったことで、独立しているかのように見える他の物語もまた、同じ世界で起きた出来事なのかもしれないと想像力を喚起させられるのも、今作の魅力だ。

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 2話目の「陰陽師、耳なし芳一に出会う。」はタイトルからも分かるように耳なし芳一の世界観に陰陽師がまぎれこみ、4話目の「三年安楽椅子太郎」では、家から一歩も出ず、椅子にすわりっぱなしの太郎という男が、雪女や笠地蔵にまつわる謎を解き明かしていく。そんなふうにさまざまなおとぎ話が重なりあう姿もまた、おもしろい。

 もしかしたら作中で語られるように、おとぎ話は人間の罪を隠すためにでっちあげられたものなのかもしれない、と想いを馳せる一方で、人知を超えた存在があたりまえに肯定される描写に、もしかしたら今も探せばどこかに実在しているのかもしれないなあ、なんて思ったりもする。論理性と合理性を貫いたうえでファンタジーを成立させる、絶妙なバランス感覚は唯一無二であるような気もする。

 ちなみに「金太郎城殺人事件」は、金太郎=坂田金時の子孫である坂田金柑が、知恵比べのために近隣の殿様ふたりを呼びだすという物語だが、金柑が殿様たちにつきつけるのは、城に隠された鬼の右腕のありかを示すわらべ歌。だが謎を追ううち、一人、また一人と城内の者たちが死んでいく。だけでなく、姥捨て山の物語も絡んで、老女の悲哀も描かれる。舌切り雀がベースの第3話「女か、雀か、虎か」もそうだったが、何も悪いことをしたわけじゃない、むしろ善人として生きてきたはずなのに、理不尽に苦しめられる人々の姿が、ふとした瞬間に浮かびあがってくるのも、今作の読みどころだろう。人の罪や苦しみを重ねてたどりつくラストは、果たして「めでたしめでたし」といえるのか。それでも笑って生きようとする人のしたたかさに、胸を打たれる。

文=立花もも

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