“生きる理由が見つからない”“自分が劣っているように感じる”人へ――ヨシタケシンスケ初の長編絵本『メメンとモリ』

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/1

メメンとモリ
メメンとモリ』(ヨシタケシンスケ/KADOKAWA)

 なんのために、人は生きているのか。時折、そんな壮大な悩みとじっくり向き合う日が、私たちにはある。特に、夏休みが明けたこの時期は子どもの不登校や自死のニュースを目にする機会が増え、自分にできる支え方や我が子の心の守り方に悩み、命に思いを馳せることが多くなる。

 そんな時、手に取ってほしいのが、柔らかいイラストと心にずしりと響く言葉で“生きる意味”を教える『メメンとモリ』(ヨシタケシンスケ/KADOKAWA)だ。作者は、これまでに目を引く絵本を多く生み出してきた、絵本作家のヨシタケシンスケさん。本作は、自身初の長編絵本。「人に訪れる死を忘れることなかれ」という意味のラテン語「メメントモリ」をもじった、「メメン」と「モリ」という姉弟が登場する。

 メメンとモリは3つの温かい物語を通して、人生は自分が思っているよりもずっと自由であることを教えてくれるのだ。

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思春期の我が子にも大人にも刺さる3つの優しい物語

 最初に描かれている「メメンとモリとちいさいおさら」では、限りある人生の満たし方を考えさせられる。

 ある日、弟のモリはメメンが作ったお皿を壊してしまい、しょんぼり。しかし、メメンは「どんなものでも、いつかはこわれたりなくなったりするんだから」とモリを励ます。そして、割れたお皿と人間の人生を重ね合わせ、この世にいる間の“自分の満たし方”を説くのだ。

メメンとモリ

メメンとモリ

 メメンが語る人生の満たし方は、大人でもハっとさせられる部分が多い。年を重ねるにつれて、私たちは自分で自分を縛ることが増える。こんな感情を持ってはいけない、こんなことに時間を使ってはもったいない、今の生き方ではダメだ、と。

 だが、本来、人生は何をしても自由なはず。正解な生き方などない。メメンの言葉に触れると、自分が思うままに、もっと日々を楽しんでいいのではないかと感じ、張りつめていた心が少し楽になる。

 自分が思う道を進めばいい――。そんな温かいメッセージを我が子に伝えられもする物語である。

 一方、収録作2作目の「メメンとモリときたないゆきだるま」は、汚れたゆきだるまの視点を通して、生まれた意味を考えさせられる物語だ。

 夜の間に降り積もった雪を集め、ゆきだるまを作ることにした、メメンとモリ。しかし、雪が足りず、晴れ間もさしてきたため、出来上がったゆきだるまは想像と違う見た目になってしまった。

 複雑な表情を浮かべるメメンとモリを見たゆきだるまは、自分は一体、何のために生まれたのかと考え、もし、人間に生まれ変わったら…と第2の人生に思いを馳せる。

メメンとモリ

 この物語は周囲と比べて自分が劣っているように感じた時、ぜひ読んでほしいと思った。自分のことが好きになれなかったり、周囲からの態度によって傷ついたりすると、自分の命に疑問を抱き、心が苦しくなってしまうこともあるだろう。

 だが、生まれた意味は自分で作っていくことができ、あなたにはオンリーワンの価値がある。物語に込められたそんなメッセージが、どうか生きづらさを抱えた子どもに届いてほしい。

 なお、個人的にウルっとさせられたのは、ラストの「メメンとモリとつまんないえいが」だ。ある日、期待していた映画がつまらず、時間を潰してしまったと感じたモリは不安な気持ちに。この先も、みんなが楽しいことをしている時、自分だけがつまらない時間を過ごし、損をしたらどうしようと考えてしまった。

 そう悩むモリに、メメンは「いきものはべつにたのしむために生きているわけじゃないからね」と意外な視点からアドバイス。生きる中で得や損は関係なく、楽しくなくてはいけないわけでもなく、幸せでなければダメなわけでもないと語り始める。

メメンとモリ

 メメンの言葉を受け、モリは「じゃあ、人はなんのために生きてるの?」と質問。すると、メメンの口から出たのは、予想外の答え。目からウロコなその回答は、ぜひ本作で楽しんでほしい。

 見方を少し変えれば、人生はもっと自由で豊かなものになる――。そう気づかせてくれる本作は、「どんな生き方をしてもいい」と背中を押してくれる一冊。自分の生き方や在り方に悩んだ日はもちろん、大切な人が苦しんでいる時のプレゼントとしても手に取ってほしい。

文=古川諭香

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https://yomeruba.com/feature/ehon/yoshitake-shinsuke/mementomori.html


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