肩こりで自分の誕生日が思い出せない! ストレッチで弁護士のおじさんが少しずつ健康になっていくだけの中年メンテナンス物語

マンガ

更新日:2023/9/27

すこしだけ生き返る
すこしだけ生き返る』(うすくらふみ:著、なぁさん:監修/小学館)

 30歳を手前にした僕にも「老い」が確実に忍び寄ってきているらしい。階段でつまずいたり、靴下を立って履けなくなったり、腕がうまく上がらなくなったり……年齢を重ねるとどうしても体にガタがきてしまうものだ。そんな時、「もういい歳だから」と諦めてしまうのか、あるいは「ストレッチで動きをよくしよう」と思うかで、その後の人生は大きく変わってしまいそうだ。

すこしだけ生き返る』(うすくらふみ:著、なぁさん:監修/小学館)は、42歳になった肩こりのひどい弁護士の間先生が、なぜかストレッチに詳しい事務所で働く女性の山村さんにメンテナンス術を教えてもらい、毎話ほんの少しずつ健康になっていくマンガである。


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「癪だから」元気で健康的な若者にストレッチ姿を見られたくない中年のおじさん

 弁護士の間先生は、肩こりをほぐすストレッチを日頃から行っているのだが、ストレッチしている姿を若者に見られたくないと思っていた。理由は「癪だから」。

すこしだけ生き返る

すこしだけ生き返る

 そんなある日、退勤後に忘れ物を取りに来た山村さんに、あるきっかけで肩こりに悩んでいることがバレてしまう。すると、あれよあれよと言う間に肩こりによく効くストレッチのレクチャーが始まってしまう。肩に手を置き、肘で円を描くように肩を回すストレッチなのだが、これ、実は弁護師の間先生が一人でこっそりやっていたストレッチなのだ。

 なんだ知っているぞ、と思っていると、次の山村さんの言葉に耳を疑う。

「体の前で肘をつけて、できるだけ離れないように回してください」

「肘をつける……だと?」と驚きを隠せない間先生。

すこしだけ生き返る

 実際にやってみると、肩甲骨が剝がされて、硬くなった筋肉がほぐれていく感覚に、顔には出さずともかなり満足している様子。

 この、体の不調やストレッチに興味があることを若者に知られたくない42歳の間先生と、より効果的なストレッチの助言を、ふと何気なく言ってのける若者、山村さんの関係が微笑ましい。彼女の父も、ちょうど肩こりに悩んでおり、間先生とも同年代とのことで、何か親近感などもあるのかもしれない。

 また、彼女は体の健康を増進するストレッチへの助言だけにとどまらず、ふと仕事に関する的を射た言葉を言って、間先生に気づきを与える立ち位置でもある。

ストレッチの「肩入れ」と、ひいきすることを意味する「肩入れ」の言葉遊び

 このマンガの面白く読みやすい点は、物語に沿って部位・ストレッチが連動していることだ。友人に貸したお金を返してもらいたいという依頼人の話では、彼が肩を凝っていることに気づいてしまい、同情してしまう。その結果、「依頼人に肩入れをしないこと」という仕事のポリシーを持つ間先生だったが、無意識に、依頼人に肩入れをしてしまう。挙句、股関節を伸ばす「肩入れのストレッチ」を教えるという言葉遊びがあったりする。

すこしだけ生き返る

 また、離婚調停の相談にきた女性は、飼っていた猫を夫に渡したくないと言って、事務所に猫を毎回連れてくる話がある。ここでは、間先生が「猫背」であることを助手の山村さんに指摘され、猫背には「猫のポーズ」がよく効くと、四つんばいになって両腕を伸ばし、顎と胸を床にくっつけるポーズを伝授する。

すこしだけ生き返る

 おじさんの年齢に抗えない哀愁と、ストレッチで老いを食い止めようとする抗い、それを暗に手伝い、健康推進する山村さんという若い女性の関係は一見そこまで深くかかわりすぎないドライなものだ。しかし、干渉しすぎずとも結果的に助け合うような形になっており、良い関係を築いている点がいい。また、法律事務所にやってくる依頼人の相談と、ストレッチが密接に関係しているおかげで、話が入ってきやすくて非常に読みやすいのだ。

 また、間先生にストレッチを教えることになる人は、山村さんだけではなく、かつての高校の同級生だったり、依頼人であったりして、まるで間先生の体を気遣って方々の人たちが彼を健康にしてやろうと躍起になっているみたいな構図で微笑ましい。話を重ねるごとに健康になっていく渋いおじさんの健康増進を楽しむも良し、読みながら実践し、自分の健康増進に繋げるも良し、法律事務所にやってくる依頼人の悩みが解消されていく様子に心満たされるも良し、色々な楽しみ方のあるマンガだ。肩の力を抜いて、リラックスして楽しみたい1冊である。

文=奥井雄義

(C)うすくらふみ/小学館

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