マイナ保険証で医療崩壊を招く可能性も? 安全、利便性、介護医療の視点から考える行政DXの課題

暮らし

公開日:2023/9/13

マイナ保険証の罠
マイナ保険証の罠』(荻原博子/文藝春秋)

 個人情報の誤登録や医療機関での認証トラブルなど、ニュースで話題の「マイナンバーカードの健康保険証利用」。将来、マイナンバーカードの利用範囲が広がる見込みの中、不安を感じさせる報道が多いが、実際にマイナ保険証が生活にどう影響を与えるのか、はっきりイメージできていない人も多いのではないだろうか。そんな人が、マイナンバーカード問題や行政のデジタル化について意見を持つきっかけを得られるのが、本書『マイナ保険証の罠』(荻原博子/文春新書)だ。

 著者は、経済ジャーナリストの荻原博子氏。マイナンバーや、マイナンバーの健康保険証利用に関するこれまでの経緯や法律、弁護士や医療従事者などの意見をふまえて、健康保険証とマイナンバーカードの一体化を急ぐ政策に警鐘を鳴らしている。

 改めて説明すると、マイナ保険証とは、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせたもの。すでに登録や利用が進んでいるが、政府は、2024年秋には現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一本化する方針を掲げている。将来的には、運転免許証などの機能も集約される見込みだ。

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 荻原氏が指摘するマイナ保険証の問題点は、主に次の3つ。マイナ保険証で集めた個人情報はビジネス利用で民間に提供されるため、漏えいのリスクが高いこと。運用体制が整っていない状態でマイナ保険証の導入を進めると、医療機関や介護現場でのトラブルが多発し、従事者の負担が増えること。そして、マイナ保険証の使いにくさから、医者にかかる機会が少ない若者と、医療が必要な高齢者の健保未加入状態が発生することだ。

 トラブルが起きても国がデジタル化を急ぐ背景には、国民の利便性よりも経済活動を優先する政治があると著者は指摘。デジタル化先進国であるフィンランドや、ITの力でコロナと戦った台湾の例を挙げながら、マイマンバーを含むデジタル化政策は国民の声を聞いて進めるべきだと著者は語る。

 マイナ保険証に関する情報や意見は世間に溢れているが、断片的なものも多く、問題の全体像をつかみづらい。しかし本書は、そもそもマイナンバーカードとは何かということや、マイナンバーカードのメリットとデメリットなどを解説した上で、安全、利便性、介護医療などのさまざまな論点から問題を指摘しているため、読者はマイナンバーカードに関する基礎知識の土台と、多角的な視点を得られる。

 たとえば本書ではマイナンバーとマイナンバーカードの違いを改めて解説。マイナンバーはすべての国民に割り振られる番号であるが、マイナンバーカードの発行は任意であり、目的や性格が違うという前提も意外と知られていないのではないだろうか。そのほか、海外での行政のデジタル化の成功例やトラブルなどの事例、診療情報漏えいに関する医師の意見など、本書で得られる情報は、マイナンバーカードやマイナ保険証を、自分事として考えるヒントになるはずだ。

 今まさに、リアルタイムで進んでいるマイナ保険証の問題。本書で得た知識をベースにニュースで報じられる最新情報をチェックすれば、マイナンバーカードへの理解がより深まりそうだ。読むことで、ニュースや政策のあり方に対する見方も変わるかもしれない。

文=川辺美希

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