「こんな会社、やめてやるー!」働く人なら共感せずにいられない『午前3時の無法地帯』のセリフが刺さりまくる

マンガ

公開日:2023/10/4

午前3時の無法地帯
午前3時の無法地帯』(ねむようこ/祥伝社)

 舞台となるのはパチンコ業界専門のデザイン事務所。

 業務は超多忙で、深夜の2時3時までフル稼働は当たり前。なんの因果か、そこに就職してしまった新人デザイナーのももこは、「やめてやるー!」と心のなかで叫びながらも日々仕事に追われていて……。

 少女マンガから青年マンガまで、様々なジャンルを横断して活躍するねむようこ氏の名を世に知らしめた初期の代表作『午前3時の無法地帯』(祥伝社)。デザイン事務所というと、ともすればおしゃれでカッコいい職場というイメージを抱きがちだが、知られざるその実態を克明に綴っている。ひたすら激務に次ぐ激務。昼夜の逆転や職場に泊まり込むのもざらで、作中の序盤で描かれているように離職率も高い。

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 本作が発表された2008年当時と比べると、現在はこうした職場環境はさすがにないかもしれないが(いや、どうだろう?)、デザイナーという仕事の凄まじさが伝わってくる。

午前3時の無法地帯

 作者自身がパチンコ専門デザイン会社で働いていた経験を基にしているそうだが、POPやチラシのデザインの発注から納品までや、交わされる会話の一つ一つにリアルが宿っていて、仕事描写の詳細さに引き込まれる。

 本当はイラストレーターになりたいももこは、いつまでもこの会社に留まっていてはいけないと思っている。働いてお金を稼がなければ生きていけない。そしてどうせ働くのなら、自分のやりたい仕事で食べていきたい。だけどデザイナーとしてもまだまだ未熟で、身につけなければならないスキルはたくさんある。

 夢からどんどん遠ざかっていく現実。なりたい自分と今の自分との差に焦りを覚え、その場の勢いで「辞めますよ、こんな会社!」と言ってしまう。それに対する先輩デザイナー、堂本の返しが胸に刺さる。

“こんな会社”でも俺らは必死こいてやってんだ

午前3時の無法地帯

 夢を追うのはけっこう。だがまずは自分のやるべきことをやれ。つまり、仕事をナメんなよ、と。本書はビジネスマンガのように、仕事にまつわる名言や哲学が出てくるわけではない。しかし登場人物たちの働く姿を丁寧に積み重ねていくことで、働くことそのものの意味を読む側に問いかけてくる。

午前3時の無法地帯

午前3時の無法地帯

 多忙さゆえに恋人とすれ違いになり、破局してしまうももこだが、新たな出会いが訪れる。同じビルで働く多賀谷だ。

 大柄な体格にひげという見た目とは裏腹にのんびりとした性格の彼と、少しずつ親しくなっていく。この、ゆるやかで急がない恋のテンポが心地いい。

午前3時の無法地帯

 多賀谷のある程度肉づきのいい体つきに、穏やかなまなざし。イケメンではない普通の男性のちょっとした仕草や表情から醸される色気が、実に魅力的なのだ(勿論ももこもかわいらしい!)。

 本作は『このマンガがすごい!2010 オンナ編』の第8位に選ばれ、本田翼&オダギリジョー共演でドラマ化もされている。仕事描写でも恋愛描写でも、地に足のついたリアリティがあるからこそ、多くの読者の共感を呼んでいるのだろう。全3巻というボリュームもほどよいので、まだ読んだことのない人はぜひ手に取ってみてほしい。

文=皆川ちか

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