変異種同士の命懸けの恋の行方は……累計160万部突破の『フラレガール』作者が贈るエロスと恋愛とミステリーTL!

マンガ

公開日:2023/9/25

夜明けを乞うけものたち
夜明けを乞うけものたち』(堤翔/白泉社)

 TLというジャンルをご存じだろうか?

“ティーンズ・ラブ”の略語であり、男女の性描写を盛り込んだ女性向け恋愛作品(マンガや小説、ゲームなど)を意味する。現在、BLに引けを取らないほど盛り上がりをみせている分野の一つだ。このTLジャンルに実力派少女マンガ家・堤翔が挑戦。白泉社のマンガアプリ「マンガPark」で連載中の『夜明けを乞うけものたち』が話題を呼んでいる。

 体の一部が変異した“変異種”と人間が併存している世界。両の手のひらに口がある変異種の絶背藍(ぜつぜあい)は、職場の先輩の神崎葉鳥(かんざきはとり)に、人知れず想いを寄せていた。しかし変異種と人間の恋愛(及び性行為)には危険が伴うため、この恋は叶わないものと諦めている。ところが神崎もまた変異種であることを知ってしまい、彼女と急接近する……。

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夜明けを乞うけものたち

夜明けを乞うけものたち

 スクエア眼鏡に銀髪、さえざえとした風貌の絶背がまず、なんとも艶な風情がある。変異種であるため周囲から奇異の目で見られ続け、すっかり人間嫌いになってしまった絶背。しかし自分に対してごく普通に、フラットに接してくれる神崎と接するたび、心がほどけてゆくのを感じる。

夜明けを乞うけものたち

 彼の心をつかむヒロイン、神崎葉鳥がまた魅力的なキャラクターだ。人当たりがよく飄々としている一方で、秘密主義であり、誰かと親密な関係を築くのを諦めている節がある。というのも、彼女の変異種としての等級は第一級であり、五級の絶背よりもはるかに人間にとって害をなしかねない存在なのだ。

 神崎に懇願するかたちで関係を持つに至る絶背。だが性行為をする際に一つだけ条件を出される。絶対にキスをしてはいけない、と。彼女の抱える重大な秘密とは――?

 手のひらに口のある絶背と、頑なに自らの唇を守る神崎のせめぎ合いのようなセックスシーンは、息を呑むほどなまめかしい。作者の堤氏は、過剰なほどに色っぽい女子高生を描いたラブコメディ『フラレガール』で一躍名を高めた方。したたるばかりに色気のある絵柄にはかねて定評があったが、本作でそれはさらにスパークしている。「次の作品はTLにしませんか?」と作家に勧めた編集者は分かっているとしかいいようがない(上から目線ですみません)。

 神崎の特異体質を知ってなお彼女に惹かれる絶背と、彼を傷つけたくないがゆえに離れようとする神崎。そこへ変異種の研究と保護をする機関が介入してきて、二人の恋愛は国家的規模の重要事項となっていく。

夜明けを乞うけものたち

夜明けを乞うけものたち

 神崎とキスをすることは、文字どおりの命懸けだ。
 この上なくロマンティックにして危険な設定を、ミステリー要素をちりばめることで効果的に活かしている。

 絶背にまだ打ち明けていない神崎の過去。敵とも味方とも判別しがたい研究保護機関の所長&副所長。そして絶背と神崎の恋の行方。エロスと恋愛とミステリーと、隙あらばといわんばかりに捻じ込まれるギャグ。TLの特性を存分に発揮しつつ、このジャンルに収まりきらない作品となるであろう予感がして、胸が高鳴る。

文=皆川ちか

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