人の心を読める超能力者が、同じ能力者に出会うとどうなる? 超能力者の悲哀と葛藤を描く、筒井康隆の衝撃SFサスペンス

文芸・カルチャー

更新日:2023/11/10

七瀬ふたたび
七瀬ふたたび(新潮文庫)』(筒井康隆/新潮社)

 世の中には超能力者が登場する小説がたくさんある。その中でも異彩を放つ作品——それが、筒井康隆の『七瀬ふたたび(新潮文庫)』(筒井康隆/新潮社)ではないだろうか。生まれながらに人の心を読むことができる超能力者、テレパスの火田七瀬。美しくも物悲しいその姿は、私たちの心をこれでもかというほど、掻き乱してくる。

 実は『七瀬ふたたび』は、『家族八景(新潮文庫)』(筒井康隆/新潮社)に続く、「七瀬シリーズ」第2弾だ。だが、この作品から読んでも、すっかり七瀬の虜になってしまうし、むしろ、前作『家族八景』を読んだことのある人は、作品の趣の違いに驚かされるのではないだろうか。前作は、異能少女版「家政婦は見た」とでも形容できるような、家庭内の問題をブラックユーモアを効かせて描き出したホームドラマだったが、本作はサスペンス。描かれるのは、超能力者同士の出会いと交流、そして、彼らの抹殺を目論む組織との戦いだ。

『七瀬ふたたび』では、七瀬は20歳を迎え、かつての家政婦の仕事はすっかりやめている。ある時、彼女が夜汽車のなかで出会ったのは、人の心を読むことができる能力を持つ3歳の少年・ノリオ。自分と同じ能力を持つ人間に初めて出会ったことに、七瀬は強い感動を覚える。さらに、同じ列車には、予知能力者の青年・恒夫も乗り合わせていた。その後、七瀬はひょんなことからノリオを保護することになり、その他にも、たくさんの人物と巡り合う。見た目は屈強だが心は優しい、念動力使いの黒人・ヘンリー。七瀬同様、超能力者であることに強い孤独を感じている、時間遡行者・藤子。超能力者ではないが、膨大な精神エネルギーで自由奔放な思考をする、ヘニーデ姫こと、瑠璃。だが、超能力者を抹殺しようとたくらむ謎の組織が、彼らの命を狙い始め……。

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 どうして七瀬という女性にこれほどまでに心惹かれるのだろう。類稀なる美貌や、世の中を見つめる冷め切った視線も魅力的だが、その一番の理由は、彼女の存在自体が悲哀に満ちてみえるせいではないだろうか。七瀬は、自分の能力が他の人間に露呈することを恐れ、ずっと強い孤独を抱えて生きてきた。そんな彼女にとって、ノリオをはじめとする仲間たちとの出会いは、どれ程かけがえのないものだっただろう。だが、そんな大切な仲間が、何者かによって危険にさらされていく。どうして超能力者たちはこの世界に生まれたのか。なぜ迫害されなければならないのか。七瀬の叫びはあまりにも悲しい。

 人間という生き物は、なんて醜いのだろう。特別でありたいと願うくせに、いざ、異質な人間が目の前に現れれば、それを排除せずにはいられない。ただ放っておけばいいものを、徹底的に追い詰めようとする。この本は、超能力者たちの孤独と葛藤に満ち溢れている。七瀬たちは仲間たちとどのように力を合わせ、敵と戦うのか。クライマックスにかけた展開は、あまりにも衝撃的。七瀬を待ち受ける運命を、あなたも是非とも見届けてほしい。これほどまでに、切ない思いにさせられる超能力者の物語は、他にないだろう。

文=アサトーミナミ

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