周囲からの「産め」プレッシャーがしんどい。「産む」と向き合う3人のヒロインが見つけた“自分らしい幸せの形”とは?

マンガ

更新日:2023/11/22

うむ、うまない、うめない、うみたい
うむ、うまない、うめない、うみたい』(加藤綾子:原作、ことり:漫画/小学館)

 産む、産まない、産めない、産みたい…。「子ども」という存在を考えた時、私たち女性の心には色々な感情が芽生え、立ちふさがる現実の厳しさに嗚咽を漏らすこともある。「産む」と女性たちの間には、いつもオンリーワンの物語があるのだ。

うむ、うまない、うめない、うみたい』(加藤綾子:原作、ことり:漫画/小学館)は、そう痛感させられる、「産む」をキーワードにしたオムニバス・ヒューマンコミック。3人のヒロインが自身の心と向き合い、子どもを持つことの意味を考えていく。

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■周囲からの「産め」プレッシャーに悩む20代女性の葛藤

 20代の明日香は親になる自信が持てず、子どもを持ちたくないと、ずっと思っていた。そこで、彼氏の徹にプロポーズされた際、そうした気持ちを吐露。すると、徹は気持ちを受け止め、「明日香が子どもいらないなら、俺もいらない」と理解を示してくれた。

 安心した明日香は徹と結婚。優しい夫と過ごせる毎日に幸せを感じ、満足していた。しかし、「もう結婚して2年」と周囲から子どもを期待されたり、子どもを授かるようにと実母からお守りを渡されたりするようになり、普通の幸せとは何かと考えるようになってしまう。

 同僚が卵巣がんで入院することになった際には職場仲間から「産むなら早いほうがいい」と言われ、ため息が漏れた。そして、自分が思うように生きたらいいと口にする祖母も「もし女の子を産んだら…」と明日香が子どもを産む前提で話を進めることがあった。

 そうしたプレッシャーを受け続けた明日香の心は、ついに限界に。ある日、早く子どもを産むよう、催促する実母と言い争いになってしまった。

 そんな時、明日香の心を救ってくれたのは徹の優しさ。徹は子どもができない原因は自分にあると、嘘をついて明日香を守ってくれた。そして、2人きりになった後、優しい言葉で傷ついた明日香の心を包み込んでくれたのだ。

“世間なんかどうでもいいもん。俺は、明日香が大切なだけ。(中略)まわりがなんと言おうと、明日香がしたいようにすればいいって思ってる。――俺たちは俺たちでいい。”

 徹のこの言葉は子どもを持つことに抵抗がある人だけでなく、持てないことに苦しんでいる人にも響くものだと感じた。他人や世間は、変なところでお節介だ。どう生き、どんな幸せを求めたいかなど人それぞれで、そこにはやむを得ない事情がある場合も多いのに、自分が思う幸せを一方的に押し付けてくることもある。

 だが、誰かから押し付けられる幸せのものさしに従えない自分を責めなくてもいい。あなたには、あなたの心が求める幸せを選ぶ権利がある。「産む」と「産まない」の決断は、自分に正直な心で下していいのだ。

 そして、様々な事情で子どもを産むことができない人は、どうか自分を責めないでほしい。たとえ、心から歯がゆさや苦しみは消えなくとも、たくさん笑える今日を積み重ねていってほしいと、産めない当事者である筆者は思う。

 本作には、推し活と妊活の間で揺れるアラサーの芳野や卵巣がんが見つかった沙百合のエピソードも収録。十人十色な子どもへの想いに、自分の気持ちを重ねる人はきっと多いことだろう。

 ここに描かれているのは私たちの物語であり、私が経験するかもしれなかった痛みである。そう気づくと、自分とは違う子どもに対する考え方も受け入れたくなるはずだ。

文=古川諭香

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