【賞金3億円】Netflixでアニメ化の没入型バトルゲーム。姉は死に、兄は引きこもりの崩壊家族がゲーム上では最強家族?

マンガ

更新日:2023/11/22

グッド・ナイト・ワールド
グッド・ナイト・ワールド』(岡部閏/小学館)

 私は漫画が好きだ。そのためか、よくゲームも得意だと誤解される。一般的には漫画好き=ゲーム好きというイメージなのだろうか。あくまでも私の場合だが、それは誤解である。ゲーム禁止の家庭で育ったので、ゲームにはとことん疎い。そのため、今の世の中にネトゲ(インターネットを介したオンラインゲーム)というものが存在していて、ユーザーがそれぞれゲームのキャラになり、キャラとキャラのつながりが、時にユーザー同士のつながりになると知ったのも人より遅かった。ただ、だからこそ断言できることもある。ゲームを題材にした漫画が、ゲームの知識ゼロの人でも楽しめるのかどうか自然とわかるのだ。

 今年2023年10月12日からNetflixでアニメ化、独占配信されている『グッド・ナイト・ワールド』(岡部閏/小学館)も、読みながら「ゲームに疎い人にも勧められる」と感じた漫画のひとつだ。なぜなのか、原作漫画のあらすじを紹介しながら考察したい。

 本作は、序盤からしばらくは異世界のファンタジー漫画を読んでいるような感覚に陥る。その舞台は「プラネット」というネットゲームの中の架空の世界であり、ゲームのジャンルはバトルだ。そして「プラネット」で有名なのは、最強の四人組“赤羽一家”(あかばねいっか)だった。この一家が強いのは、4人の人物が「プラネット」の世界にのめりこんでいる時間が長いからで、ゲームの中でも時折、周囲からは「廃人」、つまり「ネトゲ廃人」とも呼ばれているほど。赤羽一家は架空の世界の疑似家族だ。しかし彼らは、それぞれの個性を認め合いながら強い絆で結ばれていた。

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 ゲームにはラスボスのような最終標的がいる。「プラネット」の場合は「黒い鳥」を捕獲、もしくは討伐することだ。これを成し遂げるとゲーム内ではなく、運営会社から現実で3億円がもらえる。「プラネット」のユーザーはゲームを通して現実でも同じ感覚を得られるため、多くのプレイヤーがこの仮想現実に没入し、「黒い鳥」を目指して争う。

 ここまでなら本作を異世界のゲームを描いた作品として読むことができる。ところが前半の早い段階から、2点の重大な事実が読者に明かされる。ひとつ目は、「プラネット」の赤羽一家は、現実でも家族であること、しかしその一家はゲームとは違い現実では家庭崩壊していることだ。ゲームの中の主人公「イチ」の現実世界での名前は太一郎、一家の長男でニートである。家にある家族写真などから、もともとは5人家族で仲が良かったこと、3人の子どものうち綾という女性が死んでいることが示唆されている。さらに、母は家を出て行き父は家族から冷たく扱われ、弟の明日真は、部屋からほとんど出ない兄の太一郎を見下している。太一郎の幸せは自分が「イチ」という名前のキャラでいられる仮想現実の中にある。2つめは最終標的の「黒い鳥」についてだ。覚醒した「黒い鳥」は、ネット回線を通じて「プラネット」のユーザー、つまり現実にいる人をも殺せるというのだ。

 ストーリーの斬新さはもとより、エピソードとエピソードのあいだに収録されているコラムも見どころのひとつだ。ネットゲームの性質や「プラネット」の特異性について書かれており、よりこの漫画の世界観に入り込めるような内容が読者に提示されている。特にゲームについての知識があまりない私にとって、人がネトゲ依存になってしまう理由や、ギルド(組織)などのゲーム用語を知ることができたのは大きかった。

 漫画の『グッド・ナイト・ワールド』は全5巻で完結済みだ。テンポが良く飽きさせない展開で、するすると読み進められる。今回のアニメ化にあたっては、「原作がまだ連載中なのでアニメの展開が大きく変わる」という、時にアニメに生じがちな問題もなく、原作漫画のファンも未読の人も、同じようにアニメを楽しむことができるだろう。もしかするとアニメだけ、原作だけの描写もあるかもしれない。原作から読もうか、アニメから見ようか。前述したようにテンポの良いこの漫画であれば、どちらを選んでも後悔することはないはずだ。

 季節も読書の秋だ。ゲームに疎くても楽しめる本作を手に取って、アニメといっしょに楽しんでほしい。

文=若林理央

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