豪華客船で見つかった富豪の死体の謎。ユーモアあふれる軽妙な会話と、次々とたたみかける事件、ギャップのある展開に引き込まれる英国警察小説

文芸・カルチャー

PR公開日:2023/10/18

運命の時計が回るとき ロンドン警視庁未解決殺人事件特別捜査班
運命の時計が回るとき ロンドン警視庁未解決殺人事件特別捜査班』(ジェフリー・アーチャー:著、戸田裕之:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 ロンドン警視庁の警部ウィリアム・ウォーウィックは、妻のベスとともに豪華客船で休暇を過ごしていたが、船上で富豪一族の後継者争いのさなかに殺人事件が発生。休暇中のウォーウィックは限られた時間の中で捜査に乗り出す。一方、彼の同僚たちは新設された未解決殺人事件の特別捜査班で、5件の未解決事件の捜査に乗りだす。さらに仇敵である天才的犯罪者マイルズ・フォークナーの企みが再び動き始める—。

 圧倒的なリーダビリティと見事なストーリーテリングで世界的ベストセラーとなった『ケインとアベル』や〈クリフトン年代記〉シリーズの著者、ジェフリー・アーチャーによる新シリーズが、ロンドン警視庁の刑事のウォーウィックを主人公にした英国警察小説〈ウィリアム・ウォーウィック〉シリーズである。そしてシリーズ最新作である第四作の『運命の時計が回るとき ロンドン警視庁未解決殺人事件特別捜査班』(戸田裕之:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)もまた、アーチャーの巧みなストーリーテリングを堪能できる一冊となっている。

 物語は豪華客船上での探偵ものから始まり、ウォーウィックの宿敵であるマイルズ・フォークナーとのシリーズを通した頭脳戦、そしてウォーウィックの捜査チームが受け持つ未解決事件の捜査が並行して進むというアーチャーお得意の構成。並行して進行する複数の事件に読者が混乱なくページをめくり続けられるのは見事というほかはない。またウォーウィックとベスの夫婦の会話や、繰り広げられるちょっとした問答など、英国らしい機知に富む会話劇はシリーズの大きな魅力である。しかしそんなウィットに富んだ軽妙なやり取りを楽しんでいると、一転して事件はシリアスさを増していくから油断ならない。このあたりのツイストの妙はジェフリー・アーチャーの作家としての凄みを感じずにはいられない。

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 本シリーズの主人公ウィリアム・ウォーウィックは、准男爵にして一流の法廷弁護士を父に持つが、その父の反対を押し切り幼いころからの夢であった警察官となる。第一作の『レンブラントをとり返せ─ロンドン警視庁美術骨董捜査班─(新潮文庫)』(新潮社)では、専攻していた美術の知識を武器に、美術骨董捜査班の新米捜査官として事件解明へと乗り出す。このシリーズは著者がすでに語っているように、主人公ウォーウィックが新米警察官からロンドン警視庁(スコットランドヤード)の警視総監へ昇りつめるまでを描く長篇小説である。

 主人公ウィリアム・ウォーウィックは、『まだ見ぬ敵はそこにいる』では麻薬取締独立捜査班に配属され、捜査巡査部長としてロンドンの悪名高き麻薬王の逮捕を目指す。そして『悪しき正義をつかまえろ』では内務監察特別捜査班で捜査警部補に昇任し、警察内部の腐敗警官の摘発に挑む。このように部署を変えながら次々に難事件に向かうという仕掛けも面白い。

『運命の時計が回るとき』はシリーズの続編であるものの、魅力的な人物たちが織りなす幾重もの重厚なストーリーは本書だけでもアーチャーらしいエレガントな小説世界を堪能できる。もちろん物語は過去作とも密接に関わっているので、シリーズファンの読者はより魅力的なウィリアム・ウォーウィックの物語へと没入できるだろう。

文=すずきたけし

シリーズ第一作『レンブラントをとり返せ -ロンドン警視庁美術骨董捜査班-(新潮文庫)』(新潮社)
第二作『まだ見ぬ敵はそこにいる ロンドン警視庁麻薬取締独立捜査班(ハーパーBOOKS)』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
第三作『悪しき正義をつかまえろ ロンドン警視庁内務監察特別捜査班(ハーパーBOOKS)』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

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