重度のマザコンの夫と、出産を急かす義母に嫌気がさして浮気。「離婚する勇気のないクズ」を自称する私は夫の弟に恋をする

マンガ

更新日:2023/12/1

夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択
夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択』(ただっち/KADOKAWA)

 浮気や不倫、嫁姑問題、などのワードからは、過激でドラマチックな作品を想像しがちだが、漫画家・ただっちが描く『夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択』(KADOKAWA)はどこにでもいる、ありふれた人物の、素朴でよくある感情を描いた漫画だ。だからこそ、この主人公の言動に対して、どこにでもいる、ありふれた私たちは、苛立ちながらもどこかで共感してしまう。

 当作品の主人公アヤは、夫の転勤で大阪から埼玉に引っ越してきた専業主婦だ。引っ越し先は、夫の実家から目と鼻の先の一軒家だ。義両親が特別にお金を出してくれたことで、20代の彼らにとっては身の丈に合わない庭付きのマイホームを手に入れることになった。優しい夫と大きな家での二人暮らし。側から見れば、羨ましいことこの上ない。

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夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択 p18

夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択 p20

 しかし、義実家に近くなったことで、夫の新たな一面が垣間見えるようになった。義母はよく野菜などのお裾分けに来てくれるのだが、その量がとても多い。その上、まだ子供ができてもいないのに「そのうち子育ても始まるんだから、今のうちに精をつけておかないと」と言ってくる。

夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択 p11

 ちょっとした世間話でも、よその家の孫の話をしながら、最後には「私も早くおばあちゃんって呼ばれたいわ」と付け加えてくる。

夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択 p24

 悪意があるのかないのか微妙なラインだが、デリカシーがないのは事実である。しかも夫は、義母が定期的に持ってくる大量の柿をなかなか食べないものだから、アヤはその処分に困ってしまう。そして、夫はどこまでも義母の味方だ。妊活もうまくいかない。アヤは感情の出しどころを見失ってしまう。そういう、ちょっとしたズレやストレスが、慣れない日常生活の中で蓄積されていた。

夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択 p29

夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択 p31

 そんなときに彼女に寄り添ってくれたのが、夫の弟であるツバサだった。

夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択 p36

 夫と顔がそっくりだが、性格は正反対。いつも自由でマイペース。気の利いたジョークも言えるし、趣味も合う。その上、母親の過干渉が嫌で一人暮らしを始めた過去も持ち、義実家の中で唯一アヤに共感できる人間でもあった。

 話をすればするほど、ツバサとの距離は縮まっていく。気がつけば、二人で買い物に行くような間柄になっていた。そして、アヤは確実にツバサに惹かれ始めていたのだった。

夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択 p72

 不倫や浮気は悪いものだ、そう思っていても、心の中で他の人に惹かれてしまう気持ちは、そう簡単にコントロールできるものでもない。友達も味方もいない慣れない土地だからか、アヤの恋心も急速に大きくなっていってしまう。

 正直、この作品を読みながら、アヤに苛立つ人も多いだろうと思う。客観的に見て恵まれた環境で暮らしながら、多少のストレスはあれど、夫や義母がひどいことを言ったりしてきているわけではない。どこで暮らしていたって、他人の悪意なんてものとは遭遇してしまうものだ。大したことじゃない。

夫がいても誰かを好きになっていいですか? アヤの選択 p151

 そう考えている一方で、もし自分が同じ立場にいたら、そんな冷静に自分を客観視して、気持ちをコントロールすることができるだろうか、とも思う。アヤのように、被害者意識を持ちながら、目の前に現れた都合のいい相手に惹かれてしまうのではないか。そうやってぐずぐずと考えてしまうほどに、アヤは等身大の存在なのだ。

 アヤは、自分のことを「文句言いながらも離婚する勇気のないクズ」と自称する。本人も分かっていながら、それでも変えられないのだ。アヤに苛立ちながらも、ツバサに惹かれてしまう気持ちには共感する。一個人としては、でもやっぱりツバサを選択するのはやめておいた方がいい……と思ってしまうが、アヤの選択については本編で確かめてほしい。

文=園田もなか


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