女性が自死した血まみれの部屋で起きた怪奇現象。葬儀・建設・清掃…業界の“中の人”だけが知る恐怖の実話怪談に背筋が凍る

文芸・カルチャー

公開日:2023/10/27

業界怪談 中の人だけ知っている
業界怪談 中の人だけ知っている』(NHK「業界怪談 中の人だけ知っている」制作班/NHK出版)

この世には様々な業界があり、“中の人”だけが知る“公然の秘密”のような怪談が存在する。『業界怪談 中の人だけ知っている』(NHK「業界怪談 中の人だけ知っている」制作班/NHK出版)は、そんな生々しい恐怖があることを教えてくれる一冊だ。

本書は、2020年からNHKで不定期に放送された人気番組「業界怪談 中の人だけ知っている」を書籍化した作品。番組の再現ドラマをもとに、怖気の走る怪奇現象を体験した人々に追加取材を行い、より恐ろしく、より不可思議に綴った全16篇の怪談小説が収録されている。

脳裏に声が響いてきて…葬儀業界の関係者が語る戦慄の怪奇譚

“怪談の向こうを覗けば、その業界のリアルな姿が透けて見える。”

そんなまえがきで幕を開ける本書には建設業界や清掃業界、タクシー業界など、全8種の業界で起きた怪談話がズラリ。

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隣に小さなお稲荷さんがまつられている工場を解体したら、ベテランの職人が奇妙な行動をし始めた。住人が突然退去した部屋を清掃し終えたのに、後日、その部屋には無数の小さな手の痕がついていた。

本書には、そうした不思議な体験の数々が臨場感たっぷりに描かれているため、まるで自分がその場にいるかのような感覚になり、背筋が凍る。

収録作の中でも、特に身の毛がよだったのは葬儀会社を経営する尾崎正則さん(仮名)が体験した怪奇現象だ。今から30年前、「妹がなくなったため、自宅に来てほしい」との依頼を受けた尾崎さんは、とある女性専用アパートへ。

亡くなった女性は、やり場のない憎しみを抱えながら自死したようで、部屋中には血が飛び散り、壁には「タカシシネ」という血文字が。ありったけの憤怒を込めたと思われるその血文字はなんと、女性が右手の人差し指を自ら食いちぎって書いたものだったという。

尾崎さんは悲惨な現場に心を痛めつつも、故人の体を綺麗にしようと作業にとりかかる。ところが、それを拒否するかのように、次々と奇妙なことが起き始めた。なぜか閉めたはずの玄関ドアが開いており、激しい音を立てて閉まる。そして追い打ちをかけるように、見知らぬ誰かの「ハヤクカエレ」という声が脳裏に響き始める。

それでも故人の化粧を続けていると、声は脳内ではなく、耳元ではっきりと聞こえるようになった。「スベテノコンセキノコスナ」「カエレ!」「デテイケ!」「カカワルナ!」と、立て続けに聞こえる声に尾崎さんは強い恐怖を感じ、仕事を済ませるやいなや、早々に現場を去り、帰宅したという。

ところが、本当の恐怖はその先に…。その後、尾崎さんは自宅で戦慄の体験をすることとなる――。

なお、尾崎さんは今でも時々、この日のことを思い出し、身が引き締まるという。なぜなら、どれだけ誠実に仕事をしたつもりでいても、思わぬ形で故人の意志をないがしろにし、怒りを買うことはあるのだということに気づかされた体験でもあったからだ。

だからこそ、故人のために何ができるかを常に考え、人の最期に寄り添い続けている。

“どんなに心を尽くしても足りないからこそ、諦めずに、寄り添い続けなければならないのだ。(中略)考えながら、目の前で眠る人に問いかける。どうすれば、あなたの尊厳を最大限守れますか、と。”

このように、恐怖体験を通して得た業界人の教訓が記されているのも、本書の見どころだと言えるだろう。本書には各業界の実情を赤裸々に語り合った「業界関係者座談会」も収録されているので、そちらも要チェック。様々な業界の現場で起きているリアルな恐怖を追体験して、身の毛のよだつ思いをしてみてはいかがだろうか。

文=古川諭香

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