京極夏彦氏も合流!? おばけの伝説地を訪ね歩く、笑いと癒しのゆる妖怪旅!

文芸・カルチャー

公開日:2023/11/3

それいけ! 妖怪旅おやじ
それいけ! 妖怪旅おやじ』(村上健司、多田克己/KADOKAWA)

 妖怪は人を元気にする、というのが、周囲の妖怪好きな人たちを見ていての感想だ。妖怪の何が、妖怪好きな人々をエネルギッシュにするのだろうか。好奇心だろうか、知的探究心だろうか。とにもかくにも、妖怪好きな人たちはアクティブで、あちらこちらへ足を使って出向いている印象がある。

それいけ! 妖怪旅おやじ』(村上健司、多田克己/KADOKAWA)の著者である両氏といえば、妖怪好きな人たちにとっては知れた名前だろう。妖怪研究家の多田氏、妖怪探訪家の村上氏、そして『怪と幽』編集長の編集R氏を加えた妖怪好きの“おやじ”3人が、妖怪や伝説にまつわる場所を自分たちの足で訪ね、その興味深い発見や道中のドタバタ劇を面白おかしくまとめた一冊。それほど運動を得意とするわけでもない3人が、一日でまわりきれるか分からないほどの過密スケジュールで時間に追われつつ街を歩きまわったり山を登ったりしながら、読者に妖怪スポットを紹介したり、「こんなおやじでも行けるんだ」という勇気を与えたりする。

イラスト/鳥井龍一

 出てくる妖怪は次のようなもの。河童、酒呑童子と茨木童子、天狗、小豆とぎ婆、ダイダラボッチ、日忌様、九尾の狐、など。この中でも本記事では、本書「おわりに」で多田氏が「長年探訪してみたいと願っていつつ、なかなかその機会を得られなかった伝説地」と明かしている第二回「酒呑童子と茨木童子の伝説を訪ねる(前編)」を紹介したい。

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 酒呑童子と茨木童子はともに京都の大江山を拠点にして悪事を働いた鬼である。この回の探訪記は、上野駅のホームを出発した上越新幹線の社内で、次のような会話から始まる。

「多田さん、今回の旅おやじはどこに行くんですか?」
「酒呑童子の生まれ故郷です」
「どちらに?」
「新潟県」
「そこで生まれたんですね?」
「そこで生まれたんです」
「京都ではなく?」
「京都ではなく」

 このように“聞くほうも答えるほうもグダグダ”、しかも山道を登るつもりが雨降りである……という“旅おやじ”節全開のゆるい雰囲気で、読者に警戒心を抱かせず不思議の世界へと誘っていく。

 3人は燕三条駅に到着して駅前でレンタカーを借りると、雨天のため予定を変更し、午後から散策するつもりであったJR岩室駅周辺から取材を始める。JR岩室駅のある新潟市西蒲区和納は酒呑童子の出生地とされる複数の土地の一つで、生家である童子屋敷の跡地や酒呑童子の墓と伝わる地蔵など、酒呑童子にまつわる場所が密集している。

 取材を続ける中で、地元の男性から「童子という地名があるし、童子田とよぶ場所もある。童子田は大きいガスタンクがあるよ」など、貴重な情報を得る。酒呑童子が仏道修行をしていたという楞厳寺で童子田のことを質問すると、寺の南側だと教えてもらい行ってみるも、墓はあるがガスタンクがなく、ここが童子田だと確証がもてない。雨の降る中、車で町を右往左往するうち、大きなガスタンクを見つけるも、童子屋敷から離れすぎのような気がし、納得できない。といったように、筋書きが決まっているストーリーではなく、行き当たりばったりなゆるさがまるでテレビの旅番組を観ているような感覚と近く、自分も同行しているような楽しさがある。

 第四回「『稲生物怪録』の舞台を訪ねる」では、怪談に精通する、“妖怪馬鹿”仲間である京極夏彦氏も参加している。『稲生物怪録』の資料が展示されており、日本で初となる妖怪博物館である「三次もののけミュージアム」の敷地内にはポツンと置かれた「かに石」なるものがあり、蟹の甲羅に見えなくもないこれは「動かさない方がよい石」と伝えられている。

 ところが、旅おやじたちは、

「重いっ! ムリだこれ」
「当たり前だよ。動くわけないじゃない!」

 と言いながら動かそうとする。ミュージアムの学芸アドバイザーから、直前に「動かすとよくないことが起こるといわれています」と説明を受けたにもかかわらず。

「京極さん、持ち上げてください」
「はい」

 と、京極氏も素直に応じて動かそうとする。京極氏の勇姿は写真付きで紹介されており、なおさら笑いを誘う。ファン必見のシーンである。

 本書に登場する山間部の祠や岩を見たいという気持ちになったら、「こんなおやじでも行けるんだから」と足を向けてもらうことが願いだという。涼しく、美しい紅葉の季節。癒やしと刺激を求め、妖怪旅をなぞってみるのも面白そうだ。きっとその体験はあなたに元気を与え、若干でも若返らせてくれるだろう。

文=ルートつつみ (@root223

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