“日本で働くか、米国で働くか”――アメリカでリストラされた35歳の底辺駐在員が、コロナ禍に本気で考えたことが詰まった1冊

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公開日:2023/11/18

底辺駐在員がアメリカで学んだギリギリ消耗しない生き方
『底辺駐在員がアメリカで学んだギリギリ消耗しない生き方』(US生活 & 旅行/KADOKAWA)

 コロナ禍がようやく明けたところに、円安と物価上昇。「日本より賃金の高い海外で働く」選択肢もこれから徐々に浸透していくのではないでしょうか。在米10年目のアラフォー駐在員US生活&旅行が、自身の体験をまとめた『底辺駐在員がアメリカで学んだギリギリ消耗しない生き方』(KADOKAWA)を上梓しました。本記事では著書より一部を抜粋し、“米国へ移住したもののコロナ禍でクビになり、日本と米国どちらで再就職活動するか”を葛藤のうえ選択した様子をお届けします。

底辺駐在員がアメリカで学んだギリギリ消耗しない生き方

■リストラされサヨナラNY 帰国後、日本の転職サイトに登録してみる

 2021年8月、とうとう私はインターン時代から5年間勤めた会社から解雇されました。
 ウイルスパンデミックによって仕事がなくなってしまったにもかかわらず、1年半も解雇されることもなく、雇用していただいた会社ならびに上司の方には感謝しかありません。

 その上、会社側から、「パンデミックが終息して仕事が元に戻ったら、呼び戻すかもしれない」と言ってもらったことも励みになり、解雇で落ち込むということはまったくありませんでした。
 それと、パンデミックになってからは日本にいる両親も心配していましたので、このときの帰国はちょうどいいタイミングだったのかもしれません。

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 日本に戻った2021年9月は、まだ厳しいコロナ対策が行われていた時期でした。「日本では屋外でもマスクをしている」と聞いていたので、情報が誇張されているのかと思っていましたが、いざ帰ってみると本当に全員が全員マスクをされていたので衛生意識の高さに驚きました。

 ところ変われば状況がまったく違うもので、私が2020年に訪れた米国中西部のとある州ではすでに屋内屋外問わず、ほとんどの人がマスクをしていませんでした。
 コロナが広まった2020年からそうした光景を目の当たりにしていたせいで私も気が緩んでいたのだと思います。

 私のYouTubeチャンネルで、過去いちばん再生されたJALファーストクラスに搭乗したときの動画をご覧になった視聴者の方から、「マスクの着け方が甘い」とお叱りコメントを頂戴いたしました。その節は申し訳ございませんでした。

 米国でも、法律やルールでマスク着用が決められている期間は、皆さんきちんと着用していました。でも、着用期間が終われば着けない人がほとんどで、「着けたい人は自由にどうぞ」といった雰囲気。社会の同調圧力はなかったように思います。

 マスクを例にとりましたが、日本は皆が皆同じ方向を向くのが好まれ、異端には極端に厳しい風潮があるように思います。
 それが良いとか悪いとか、遅れているとかいうことは思いませんが、私はそういう社会が少し苦手でございます。

 しかしこの段階で、日本の風土が苦手だのと言っている場合ではありません。ウイルスパンデミックによって米国で2021年に解雇された私は、35歳の無職です。「呼び戻すかもしれない」とは言われましたが、確約ではありません。不法滞在になってしまいますし、日本で職探しをしなければならないのです。

 思い起こしてみれば、インターン制度を利用して米国に行きましたのも、「履歴書に米国勤務経験を書くことができれば、転職するときに有利かもしれない」というセコイ考えからでございました。
 2016年8月からラスベガスでインターン、2017年8月に正社員となり、ロサンゼルス勤務を経て、2017年12月からニューヨーク勤務約4年と、いつの間にか履歴書に書けることが増えていました。

 それならば、この履歴がどのように評価されるのか、テレビCMでよく見る転職サイトに登録をしてみようと重い腰を上げたのは、2022年の1月。
「35歳以上の転職は厳しい」という話はよく聞きますが、すでに私は36歳を迎えておりました。

■日本で働くか、米国で働くか

 2022年1月、私は転職サイトに登録して履歴書を提出し、転職アドバイザーの方から「35歳を過ぎていても大丈夫です。多くの方が転職を成功させています」と励まされながら、転職活動をスタートすることとなりました。

 書類選考に通りやすい履歴書や職務経歴書の書き方をアドバイスしていただき、職務履歴を書き、添削をしてもらい、また書き直してというのは結構大変な作業でございました。しかしそのおかげで、旅行業に限らず、商社や語学を活かせる会社からもオファーをいただくことができました。

 口下手な私といたしましては、営業以外の仕事であれば、どんな仕事でもいいと考えておりました。ところが、そろそろ採用試験を受けてみようと考えていた2022年3月、突然、もともと所属していた米国の会社から連絡があったのです。
「ラスベガス支店で復職しないか」という連絡でございます。

〝突然〟というワードをここまで何度使ったかわかりませんが、うちの会社はいつでも突然です。
 万が一、復職のオファーがあるとしても、日本人の海外旅行需要が戻る1、2年先になるだろうと考えていたので、こんなに早く「日本で働くか、米国で働くか」の決断をすることになるとは思ってもいませんでした。
 ただ、選択肢が増えたのはありがたいことでした。

 米国の旅行業界で働いている場合、転職先はほぼ旅行商品の企画・実施を行う旅行業です。中には、取引があるホテル業や車両会社などからヘッドハンティングされて転職するケースもございますが、ホスピタリティ業界以外の異業種への転職はほとんどありません。

 エンジニアや金融関係、マーケティング関係の仕事をしている人は、専門スキルを積み上げることでさまざまな企業への転職が可能ですが、旅行業には異業種で活かせる専門的なスキルがあまりない、というのが実情でございます。

 そういうわけですから、日本で転職すれば、新しい業界でキャリアを広げられるかもしれません。年を重ねた両親、家族の近くで暮らすこともできます。
 一方で、米国で前の会社に戻れば、仕事もある程度わかっていて、会社の風土は合っている。ということが考えられます。

 ただし、こういう考え方もできます。
 日本で新しい会社に転職すれば、仕事を一から覚え、人間関係も一から作ることになる。
 米国で前の会社に再就職すれば、賃金の低い旅行業。加えて日本は、人口と国力が減少傾向にあり、日本人相手の旅行業は衰退産業となるかもしれない。

 いろいろ考えましたが、ぐうたらで将来を考えない私といたしましては「今、楽しく仕事ができそうな」後者が好ましく、さらに2022年3月の段階では32年ぶりの大幅円安が進行していたこともあり、米国で復職しても円換算すれば、日本でそれなりの企業に就職するのと給与面はあまり変わらないと考えるようになりました。

 また、時を同じくして予期せずYouTubeがバズり、米国暮らしのほうが動画配信ネタを作りやすいかも、という小賢しい考えも復職を後押しいたしました。

 米国でもYouTubeやSNSが炎上して訴訟問題になると困るため、社員が副業としてネット配信を行うことを禁止している企業はあるのですが、幸い、私がもともといた会社は自由と言いますかラフな風土の会社でして、YouTubeを続けてOKということでした。

・1年以上続けてきたYouTubeがバスって、ちょうど動画制作が面白くなってきたところだったので、YouTubeは続けたい。
・旅行系の動画を撮るなら、米国で仕事をするほうがマイルを貯めやすい。
・ラスベガスにいる先輩たちの誘いもある。

 そんなわけで、私は再び米国で働くことを決めました。

私は再び米国で働くことを決めました