悲しみで飼い主の遺影の前から離れないゴールデンレトリバー。しかし、動けなくなった本当の理由は… “新米ドッグトレーナー”の成長物語『DOG SIGNAL』

マンガ

更新日:2023/11/25

DOG SIGNAL
DOG SIGNAL』(みやうち沙矢/KADOKAWA)

 ドッグトレーナーはいわば、犬と人の心を繋ぐ仕事。『DOG SIGNAL』(みやうち沙矢/KADOKAWA)は、そんなドッグトレーナーという職の奥深さや犬愛にウルっとさせられるコミックだ。


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 本作は、トリマーの経験を持つ作者によって描かれた犬漫画。2023年10月にはNHKのEテレでアニメ化され、より大きな反響を呼んでいる。

 主人公は優柔不断な青年・佐村未祐。未祐は元カノから押し付けられた愛犬に手を焼いていた。愛犬は全く言うことを聞かず、散歩すらまともにできない状態。そんな現状に頭を抱えていた時、出会ったのが腕利きのドッグトレーナー・丹羽眞一郎。丹羽はリードが外れて車に轢かれそうになった未祐の愛犬を助けてくれた。

DOG SIGNAL 1巻P14

DOG SIGNAL 1巻P15

DOG SIGNAL 1巻P16

 その後、丹羽は犬心を教えながら、未祐の散歩が上手くいかない理由を説明。的確な指導に感動した未祐は愛犬のトレーニングを依頼する。だが、丹羽の口から思わぬ言葉が。トレーニングが必要なのは、犬の扱い方を知らない未祐のほうだと言われたのだ。

 犬をコントロールできるように飼い主をトレーニングするのが、自分のドッグトレーニング。そんな丹羽の言葉が染みた未祐は、この人のように犬と通じ合いたいと思い、ドッグトレーナーを目指すことを決意。丹羽のもとでトレーニングを開始する。

 こうして新米ドッグトレーナーへの一歩を踏み出した未祐は丹羽と関わる中で、個性豊かな人々とも交流するように。丹羽の幼なじみで気が強い、トリマーの泉律佳や変わり者の獣医・久宝鈴之介らから犬に関する知識を学び、愛犬との絆を深めていく。

 また、丹羽のもとで働く中で、様々な愛犬家の悩みにも触れるようになった。ご飯を部屋のあちこちに隠す、トリミング時だけ噛むなど、本作に描かれている愛犬の問題行動は、どれもリアル。世の愛犬家が頭を抱えやすい問題が取り上げられているからこそ、丹羽らが導き出す解決法はタメになる。

 数あるエピソードの中でも特に考えさせられたのは、4巻に描かれていたゴールデンレトリバーのロッキーの話。両親と息子、3人家族と一緒に暮らしていたシニア犬のロッキーは、若くして事故で亡くなった息子の遺影の前から動かなくなってしまっていた。

DOG SIGNAL 4巻P132

DOG SIGNAL 4巻P133

 父親から依頼を受け、丹羽と未祐は出張トレーニングに行くも、母親は「必要ない」と拒絶。それでも、ロッキーの健康を心配し、出張トレーニングを継続していたところ、嬉しい変化が。ロッキーは遺影の前から立ち、移動することができるようになった。

 だが、母親の姿を見ると、再び遺影の前から動かず…。その光景を目にした母親は、再び丹羽らを拒絶。ロッキーに無理をさせないでほしいと頼むが、その言葉に丹羽は反論。ロッキーが遺影の前から動けない“本当の理由”を語り始める。

 丹羽の口から語られるその理由は、意外なもの。このエピソードを通じて、読者は犬という動物が繊細で愛情深い生き物なのだということを、改めて痛感させられる。

 また、作中に登場するあらゆる悩みに触れると、犬の数だけ問題の解決法があることや飼い主側の問題が愛犬の問題行動に繋がっているケースも多いことに気づかされ、「うちの子」と向き合う姿勢が変わるはず。ダメな犬なんていない。飼い主が変われば、犬も変わる。一貫して、そう訴える丹羽の言葉はあなたの心にも、きっと刺さる。

DOG SIGNAL 1巻P76

DOG SIGNAL 1巻P77

 正しいリードの持ち方や犬に嫌われない近寄り方など、タメになる基礎知識も分かりやすく描かれているので、犬と暮らしている人だけでなく、犬を迎えようと考えている方にも、ぜひ手に取ってほしい。

 なお、著者は丹羽の過去や未祐の複雑な家庭も丁寧に描いているので、そうした人間ドラマの部分も要チェック。犬のことは大切にできるのに、人相手にはぶっきらぼうな態度を取ってしまう丹羽と、犬に関する知識は乏しいものの、人当たりが良く、場を明るくする才能がある未祐の凸凹コンビが、今後もどう犬と人を幸せにしていくのか楽しみだ。

文=古川諭香

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