「若者の読書離れ」は実は…ウソ! 10代の脳にもっともマッチし、読まれやすい本は太宰治の『人間失格』

文芸・カルチャー

更新日:2023/12/12

「若者の読書離れ」というウソ: 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか
「若者の読書離れ」というウソ: 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』(飯田一史/平凡社)

「若者の◯◯離れ」というフレーズは、もはやネットミームとなった。大人から見れば、若者は様々な物や事から離れているようだ。その代表格の一つが、「若者の読書離れ」ではないだろうか。大人は続けてこう言う。「本を読まずに何を読んでいるのか」「嘆かわしい」。

 しかし、本当に「若者の読書離れ」は進んでいるのだろうか。

「若者の読書離れ」というウソ: 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』(飯田一史/平凡社)は、ここに切り込む。本書いわく、中高生向けの読書案内・ブックガイドや読書コミュニティづくりに関する本は数あれど、本書のような10代、とくに中高生の読書の「実態」をテーマにした本はほぼ存在しない、という。

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 その本書がまず言い切るのが、「子どもの本離れ」は進んでいない、という事実。なんと、小中学生の書籍の読書に関しては、2000年代以降、不読率(1か月間で1冊も本を読まなかった人の割合)・平均読書冊数ともV字回復していることを、数々のデータから示している。この理由として挙げられるのは、官民あげての読書推進施策の影響が大きいようだ。しかしながら、この施策が手薄な高校生の書籍の平均読書冊数は1960年代半ば以降は月ほぼ1冊と横ばいであり、大学生の不読率は大学進学率とともに上昇しているらしい。とはいえ、大学生の不読率は大人とほぼ変わらないそうなので、大人も偉そうには言えないだろう。

 この他、本書ではネットやスマホが登場して以降も高校生以上の書籍の不読率や読書量は大きく変わっていないこと。しかしながらこれらの登場によって即時性やビジュアル的な要素が強い「雑誌」は読まれなくなっていることも示されている。

 さて、では若者が書籍を読むとして、どんな作品に親しんでいるのだろうか。本書が分析したところ、中高生が好むフィクションの共通点でありニーズが見えてきたという。

1 正負両方に感情を揺さぶる
2 思春期の自意識、反抗心、本音に訴える
3 読む前から得られる感情がわかり、読みやすい

 続いて、読まれる本の「型」も見えてきたという。

1 自意識+どんでん返し+心情爆発
2 子どもが大人に勝つ
3 デスゲーム、サバイバル、脱出ゲーム
4 「余命もの(死亡確定ロマンス)」と「死者との再会・交流」

 この4つの型は、3つのニーズを効率よく満たす方法であるとし、10代の脳の特徴である情動の激しい揺れ動き、激しい衝動性にフィットするのだと述べる。

 個人的にとても興味深いと思ったのが、このデータから繋げられる、不動の『人間失格』人気という事実だ。『人間失格』は上梓された当時から若者の心を掴んできた。本書いわく、それは現代の若者も同様であるそうで、『文豪ストレイドッグス』『文豪とアルケミスト』など若者に人気のある作品に太宰以外の人気キャラクターが登場するにもかかわらず、中高生には突出して『人間失格』が読まれていると明かす。これは、先述の3つのニーズ、4つの型に当てはまっていることからも説明できる。

 本記事では、本書が膨大に収集したデータ、考察、分析のごく一部しか触れていない。本書は、大人が子ども・若者の読書に対して評価を下さず「事実」をそのまま受け入れ、子ども・若者との対話や相互理解に役立ててもらうことを願っている。

文=ルートつつみ (@root223

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