【2期アニメ放送】現代の新宿に「逆」異世界転生? 「子どもが大事にされる平穏な世界」を新宿に求め奮闘するファンタジーバトル漫画

マンガ

更新日:2023/12/12

デッドマウント・デスプレイ
デッドマウント・デスプレイ』(成田良悟:原作、藤本新太:作画/スクウェア・エニックス)

「ここではないどこかに行きたい」と考えたことはないだろうか。現代社会に生きる私たちにとって、異世界転生ものの作品は一時の逃避とロマンをくれる。しかし、争いと血に塗れた異世界の住人にとっては、この現代社会こそが理想郷かもしれない。

デッドマウント・デスプレイ』(成田良悟:原作、藤本新太:作画/スクウェア・エニックス)は、異世界で生きる主人公が「平穏な世界」を求めて現代の新宿に「逆」異世界転生してくるファンタジーバトル漫画だ。2022年11月時点でシリーズ累計発行部数55万部を突破しており、2023年10月9日からはアニメ版第2期がスタートしている。

 物語は、「希代の死霊使い(ネクロマンサー)」と恐れられる主人公の屍神殿が、現代の新宿に転生するところから始まる。忌むべき存在として元いた世界で英雄に打ち倒される寸前、転生の秘術を発動した屍神殿。目を覚ますと、そこは見覚えのない異世界――現代の新宿だった。しかも転生したのは、何者かの依頼により暗殺された少年・四乃山ポルカの身体。想定外の状況に混乱しつつも、新宿の仲介屋・倉木リサの協力を得て、暗殺者の崎宮ミサキ、情報屋の繰屋匠と行動を共にすることに。屍神殿は理想とする「子どもが大事にされる平穏な世界」を求め、ポルカの身体を借りて現代社会で生活を始める。しかしそこは魔境の新宿。彼を待っていたのは、「厄ネタ」と呼ばれるオカルトじみた事件の犯人たちや、それらを追う刑事、そして「サバラモンドの落とし子」と名乗る謎の組織だった。

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 主人公の屍神殿は、冷酷さと少年のような無邪気さを持つ理解しがたい存在として登場する。「命ハ全部僕ノ玩具ダ」と容赦なく敵を撃退する一方で、返り討ちにした暗殺者を魔術で生き返らせたり、火災に遭った子供たちを助けたりと、言葉と行動がどうもちぐはぐだ。読み手の私たちだけでなく、作中のキャラクターですら「理解ができない」「思考が読めない」と底知れぬ恐怖を感じている。

 人命を軽視する悪役という印象を受けるが、彼の価値観が周囲の人々に受け入れられるきっかけとなる出来事が起こる。そのシーンを読んでもなお、読者によっては「どういうこと?」と飲み込めないかもしれない。感情移入しにくいキャラクターだが、物語が進むにつれ、少しずつ屍神殿の持つ人間らしさが明らかになっていく。彼の過去を知るうちに、「屍神殿」という異質な存在が、平穏を求めるひとりの少年として見えてくるだろう。

 主人公の魅力をより際立たせているのが、「真ポルカ」の存在だ。屍神殿がサメのぬいぐるみに憑依させた「本来のポルカ」の魂。言葉は発せないためジタバタとした動きでコミュニケーションを取るのだが、その姿がなんとも愛らしい。言葉のやり取りはできずとも主人公たちと意思疎通をはかり寄り添う姿は、作中のマスコット的役割を果たしている。

 しかしこの真ポルカ、本当はどのような人物なのか、何を考えているのか、実はまったく見えてこない。魂のみ物に憑依している現状を喜んでいたり、自分の命を狙ったミサキを「恨んでいない」とあっさり許したり、とにかく純粋無垢な存在として描かれているからだ。「屍神殿」という異名とは裏腹に人間臭い偽ポルカと、ある意味で対比になっているようにも感じる。実はこの真ポルカにも秘密があり、それが物語の核となる謎とも繋がっていくのだが、その展開はぜひ単行本を読んで楽しんでほしい。

 また、原作の成田良悟が得意とする「群像劇」は本作でも健在で、登場キャラクターの多さと個々が抱えるエピソードの濃さは過去作に劣らない。舞台となる東京には「新宿」「渋谷」「池袋」「秋葉原」と、エリアごとに裏社会の仲介屋が縄張りを張っていて、どことなく『デュラララ!!』のカラーギャングたちを彷彿とさせる。加えて、個性ありまくりな「厄ネタ」たちの存在。複数の視点から物語の核心へと迫っていく様は、成田作品の醍醐味と言える。

 それぞれの思惑が交差する中、果たして偽ポルカこと屍神殿は無事に「平穏」を手に入れられるのか――。2023年11月25日にはコミックス最新第12巻が発売される本作。原作、アニメともに目を離せない展開が続いている。現代を舞台にした新感覚のノワール群像劇をぜひ堪能してほしい。

文=倉本菜生

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