少女漫画の世界は“魔窟”!? 新人編集者は“魔物”・少女漫画家に認めてもらえるのか――『箱庭モンスター~少女漫画家、ときどき紙袋~』

マンガ

PR公開日:2023/11/29

箱庭モンスター~少女漫画家、ときどき紙袋~
箱庭モンスター~少女漫画家、ときどき紙袋~』(稚野鳥子/講談社)

「編集者」を主人公にした漫画が面白いのは、縁の下の力持ちである彼ら彼女らに光が当てられ、知られざる苦悩が描かれているからだ。ふだん楽しんでいる漫画が作られている過程には、こんなに汗を流している人たちがいるのか、と感嘆すらしてしまう。だからぼくは、「お仕事漫画」のなかでも編集者を描くものが好きだ。そんな一ジャンルに、またしても注目作品が登場した。『箱庭モンスター』(稚野鳥子/講談社)である。

 本作で描かれるのは「少女漫画編集」の世界。これまた、なかなか全貌が明らかになっていない世界だろう。作中のある人物は少女漫画編集部を指して、こう言う。

“ようこそ♡ 我が社の魔窟へ♡”

 主人公は、この“魔窟”に異動してきたばかりの男性編集者・臼井。入社以来、ずっと週刊誌編集部にいた臼井にとって、少女漫画誌「アンブラッセ」編集部への異動は願ってもない話だった。理不尽な残業、上司のパワハラ、超過勤務が続き、私生活ゼロの日々にうんざりしていたのである。そんな環境に比べれば、少女漫画編集の仕事はまるで“天国”のように見えていたのだろう。ところが、臼井は早々に釘をさされてしまう。「ここは魔窟だ」と。

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 でも、どうして魔窟なのか。それは「アンブラッセ」副編集長の次の言葉が説明している。

“いいか 少女漫画家ってのは 魔物なんだよ”

 どういうことなのかは、物語を追っていくと少しずつわかってくる。異動したての臼井は何人かの漫画家に挨拶することになるが、いずれもクセが強め。もちろん悪い人たちではない。創作の世界に身を置き闘っているため、些細なことにセンシティブにならざるを得ないこともあるのだろうし、独特の感性を全開にしなければいけない瞬間も多いのだろう。しかし、そんな漫画家を前にした臼井は、どうしても戸惑いが隠せない。なかでも面食らったのは、かつての大ヒット作家である〈まんだ先生〉だ。気に入らない編集者とは打ち合わせをせず、したとしても30分もたせることが困難。そして紙袋を被っているため、その正体は不明……というクセだらけの人物! 果たして、臼井は〈まんだ先生〉を相手に、少女漫画編集の道を極めていけるのだろうか――。

 まるで前途多難な道を臼井がどうやって切り開いていくのか、それこそが本作の読みどころではあるのだけれど、もうひとつ注目したいのが“魔物”と呼ばれる漫画家たちだ。いずれもただの“面倒な人”として描かれているわけではない。自身の作品を愛しているからこそ、ものづくりに必死で、ときには周囲の目など気にせず奇天烈な行動に出てしまう。それは“ピュア”と言い換えてもいいかもしれない。そこまで純粋に、ひたむきに漫画を描くことに向き合っている“魔物”たちを、ぼくら読者は臼井とともに応援したくなるはずだ。

 しかし、単行本第1巻のラストでは臼井に過酷なミッションが課せられる。それは「漫画家に打ち切りを宣言する」こと。臼井はそれをどうやって乗り越えられるのか。物語の続きがどうしても気になってしまうだろう。

 どう考えたって、一筋縄ではいきそうにない。それこそが「お仕事漫画」の面白いポイントであり、早速ドキドキさせられているぼくは、本作の“魔窟”っぷりに心を鷲掴みにされてしまっている。

文=イガラシダイ

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