「タイパ」重視社会の是非を問う。効率化の追求が消費活動にもたらすものは?

暮らし

公開日:2023/11/28

タイパの経済学
タイパの経済学』(廣瀬涼/幻冬舎)

 いつからか、世間で「タイパ」(タイムパフォーマンス)という言葉が躍るようになった。しかし、時間的な「効率」を求めるばかりが正解なのか。ニッセイ基礎研究所生活研究部研究員で現代消費文化論が専門の廣瀬涼氏による『タイパの経済学』(幻冬舎)は、タイパを追い求める現代社会に一石を投じる1冊だ。

「コスパ」と「タイパ」との違い

 本書のテーマ、タイパとの関連で連想されるのが、物事の費用対効果を意味するコスパ(コストパフォーマンス)だ。何となくタイパとコスパを同義と捉えていたが、その違いに言及していたのは面白かった。

 著者によるとコスパを追求する目的は一つであるが、複数の選択肢を比較検討しながらゴールに向かうのは、タイパとの違いだ。

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 例えば、今「痩せたい」と思った場合はどうか。ジムに通わなくとも目的は達成できるが、モチベーション維持のために通う人もいる。ジムによって「サウナ、プールつき」「24時間使える」「パーソナルトレーナーつき」と付加条件が様々な中から、目的のほかに生活のレベルや環境を検討したうえでの最適解を選択することになる。

 一方、タイパのゴールは一つしかない。今「痩せたい」とする願いを“最短最速”で叶えるのが目的になる。「痩せたい」の例ではジムに通うのも選択肢であるが、人によってサプリメントを飲む、エステで施術を受ける、などもゴールへ向かう手段として検討される。

 いわば費用対効果か、時間対効果か。不景気の煽りも受ける現代では、両者を天秤にかける消費傾向が顕著なようだ。

企業発信のタイパは視野を狭める?

 廣瀬氏は近年のタイパ追求思考を「私たちの労働(作業)や手間、わずらわしさが軽減し、多くの消費者の助けになっている」と評価する。しかし、企業が生むタイパ市場には疑問を呈している。

 著者が取り上げているのは、電車内で見た「たった4種類で、その世界が大体わかる」とうたう、“その道のプロが厳選した商品”のセット商品の広告だ。

 商品内容は、チーズケーキ、紅茶、コーヒー、梅干し、はちみつなどと様々。例えば、コーヒーを選ぶ際に消費者がインターネットで「コーヒー 押さえておけばいいもの」と検索するのではなく、企業側が発するこの「4種類さえ知っていればOK」とのメッセージを“何となく”受け入れてしまえば、その世界への「視野を狭めかねない」と指摘する。深掘りすることが楽しい、いわゆるオタク心からしたら納得だ。

 いざコンテンツの価値に目を向けるなら、「好きだから知りたい、探求したい」との欲求に沿って、“遠回り”をするのも必要ではと考えさせられた。

「消費は楽しい」と著者は伝える。効率を求めるばかりが正解か、タイパ思考は不合理か否か。時間に縛られている現代社会への議論を投げかける。

文=カネコシュウヘイ

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