賭けるのは金だけじゃない!?銀行の地下に隠された巨大な賭場で、命がけの勝負が始まるギャンブルバトルマンガ

マンガ

更新日:2024/1/18

ジャンケットバンク
ジャンケットバンク』(田中一行/集英社)

 何かひとつ選択を間違えれば、命を落とすかもしれない。日常生活でそんな体験をすることは中々ないだろう。無難な社会生活を選び、たまに退屈さを感じ、ときに成功を夢見ても、リスクを前に実行はしない。多くの人がそういった人生を歩む一方で、世の中には大金と人生を天秤にかけて、デッド・オア・アライブなゲームに身を投じるギャンブラーたちがいる。私もかつては、その中のひとりだった。一瞬で価格が乱高下する仮想通貨のFXトレードにどっぷり浸かり、有り金のほとんどをベットして、億り人になるか借金を背負って死ぬかの緊張感に酔っていた。『ジャンケットバンク』(田中一行/集英社)を読んでいると、そんな狂った日々が脳裏に蘇って懐かしくなる。あの背筋がゾクゾクするようなデスゲームの興奮を、思い出させてくれるのだ。

『ジャンケットバンク』は、銀行の地下賭博を舞台にしたギャンブルマンガだ。主人公の御手洗暉(みたらいあきら)は、カラス銀行中央支店に勤めて2年目の銀行員。窓口業務を担当しながら、日々を退屈に過ごしていた。常人離れした記憶力と計算力を持ちながらも、つまらなさそうに生きていたある日、突然異動を命じられる。新しい配属先は、特別業務部審査課、通称「特四」。銀行賭博の運営と審査を担当する部署だった。上司の宇佐美に案内された先は、銀行の地下に広がる賭場。そこで御手洗は、謎のギャンブラー・真経津晨(まふつしん)と出会い、彼に魅了されて心酔し平穏を手放していく。

ジャンケットバンク

 頭脳戦や心理戦による「騙し合い」が好きな読者には、とにかく刺さるだろう本作。負けたギャンブラーを待っているのは、基本的人権の喪失か、文字通りの死。先の読めない駆け引きに、つい没頭して読み込んでしまう。

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 ルールの抜け道や相手の性格を逆手に取り、あえてピンチに陥ることで、巧妙にゲームを誘導していく真経津。すべてが彼の手の内だったと知ったとき、対戦相手の目の前には鏡の幻影が現れる。そこに映るのは、驕り高ぶった自分自身の本質だ。「鏡の中に君を助ける答えはない」その決めセリフとともに鏡が割れる演出が入る。

ジャンケットバンク

 真経津の罠は一体いつから仕掛けられていたのか? いわゆる“解説パート”に入った瞬間の快感たるや。たったひとつの判断で、天国にも地獄にも行けてしまう。その綱渡りの感覚が、かつて彼らと同じようなギャンブラーだった私には、愉快でたまらない。

 まともな感性を持っていたはずの御手洗が、銀行賭博の闇に揉まれながら常識から外れていく過程も読んでいて楽しい。気が付けば、作中に出てくる賭場のセレブな観客たちと同じ目線で、ギャンブラーたちの命がけの戦いを眺めているはずだ。

 また、賭けをするのはギャンブラー同士だけではない。実は、賭場を運営する銀行員たちも、「勤続年数(キャリア)」を通貨に変えて奪い合っており、相手にキャリアを支払えば、情報や能力、部署内でのあらゆる権利を得られるというのだ。その中には、ギャンブラーの担当権もあった。真経津の戦いを見続けたい。そして彼が負ける姿を間近で見たいと、担当権をめぐりキャリア争いに身を投じる御手洗。回を追うごとに情緒がおかしくなっていく彼だが、歴戦の銀行員たちには勝てず、ついにキャリア100年分の負債を追ってしまう。そんな彼を待っていたのは、債務者たちの地獄“地下オークション”だった……

ジャンケットバンク

 作者自身が「イケメン顔芸ギャンブル漫画」と称しているように、登場キャラクターたちはクセが強い美形だらけ。ギャンブルに負けたときなど、随所で見せてくれるピカソを思わせる顔芸には、思わずくすりとさせられる。また敵同士だったキャラたちが、対戦を機に友人関係になっているのも、少年マンガらしさがあってアツい。

 平凡な日常に飽きている人にとって、刺激をもたらしてくれる本作。一度でもギャンブルにハマった経験があるならば、登場人物たちの常軌を逸した心理をより楽しめるかもしれない。コミックス最新13巻が好評発売中だ。爽快感のある心理戦が好きな人は、ぜひ読んでみてはいかがだろうか。

文=倉本菜生

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