昼のカツカレー、欲望に任せて食べるか、ダイエットを取るか? 単純な二択で考える思考をやめると生きやすくなる

社会

公開日:2023/12/18

現代思想入門
現代思想入門(講談社現代新書)』(千葉雅也/講談社)

 生きづらいといわれる現代社会において、少なくない人がなんとなく不安や窮屈さを常に感じているかもしれない。その原因は何なのか、どう解釈して対処すれば良いかがわかれば、生きづらさが少しは軽減されるかもしれない。

「新書大賞2023」大賞に選ばれた『現代思想入門(講談社現代新書)』(千葉雅也/講談社)は、今こそ現代思想の学びを勧める哲学入門書。本書によると、広い意味でコンプライアンス的な意識をもつようになった現代人や、それらが形成する現代社会は、かえって「何かと文句を言われないようにビクビクする生き方になってきた」と述べている。そんな生きづらい現代社会において、現代思想を学べば、

・複雑なことを単純化しないで考えられるようになる
・単純化できない現実の難しさを、以前より「高い解像度」で捉えられるようになる

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 と説明している。本書が述べているように「複雑なことを単純化できるのが知性なのでは?」と疑問に思う読者に向けては、

・コンプライアンス的な意識が高まり、いっそうの秩序化、クリーン化に向かっている社会で、必ずしもルールに収まらないケース、ルールの境界線が問題となるような難しいケースが無視されることがしばしばである

 として、単純化の罪を語っている。本書が提示する単純化のわかりやすい例でいえば、「善と悪で善を選ぶ」「健康と不健康の対立で健康を選ぶ」といったところになりそうだ。本書がいうに、これらはプラス/マイナスが常識的に明らかな対立であるが、例えば「自然と文化」「身体と精神」といった対立ではどちらが正しいのか単純化することは難しい。どちらかに優位性を与える価値観によって、主義が分かれるからだ。つまり、お昼にカツカレーを食べるかどうかで迷っている人にとって、素朴な欲望を取るか、ダイエットを取るかといった二者択一が生じる。このように、日常生活上であっても物事には二者択一が存在しやすく、単純化して考えることは難しい。しかし、コンプライアンス的な社会ではこれらが無視され、一律に強いられることがしばしばである、と本書は述べているのだ。

 そこで、現代思想が有用である、というわけである。本書いわく、現代思想の中では、物事を「二項対立」…つまり「二つの概念の対立」によって捉え、良し悪しをいおうとするのを“いったん留保する”といった考え方がある。例えば、先述のカツカレーの話では、ダイエットを意識しているのに快楽を取る、という一貫性のない判断もあり得る。

 別例では、自分で自分をきっちりとコントロールして、主体的・能動的であることが正しく、受け身になるのはよくない、といったよくある啓発が取り上げられている。これも同じように、能動的なことも大切だが、他者とともに生きている私たちは他者に主導権があり、それに振り回されているときも、ここに楽しさを感じるという両義性が重要である、と述べている。

 つまり、単純に決定できないことを単純化すべしという社会からの解放のヒントが本書には詰まっている、ともいえる。

 本書は、「グレーゾーンにこそ人生のリアリティがある」と説いている。年末年始の空いた時間、生きづらさに悩む人に一読をお勧めしたい。

文=ルートつつみ (@root223

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