スーパーの入り口付近に「野菜」があるとスーパーは儲かる? 周囲の環境に驚くほど誘導されている人間の「行動経済学」

ビジネス

更新日:2024/2/1

勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門
勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門』(エヴァ・ファン・デル・ブルック&テイム・デン・ハイヤー:著、訳:児島修/ダイヤモンド社)

 自分の意思で行動しているはずが、人間の行動は周囲の環境に「自然に誘導されている」とは驚く。日常生活で私たちに「影響」をもたらしているものとは何か。その疑問に科学的知見から答えるのは、書籍『勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門』(エヴァ・ファン・デル・ブルック&テイム・デン・ハイヤー:著、訳:児島修/ダイヤモンド社)だ。

 海外の行動経済学者と行動デザイナーによる著書を日本語訳した本書では、身近に想像しやすい場面で、私たちがいかにして誘導されているのかを解説している。そう聞くと、いかがわしく思えるかもしれないが、自身や他人の行動を前向きに深く「理解」するきっかけにもなる。

スーパーの入り口付近に「生鮮食品」がある理由

 スーパーマーケットを想像してほしい。複数の入り口がある店舗では一概に言えないが、多くの店舗では、ひとたび足を踏み入れると真っ先に「野菜」や「果物」といった「生鮮食品」が目に飛び込んでくる。

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 本書によれば、スーパーマーケットの店内レイアウトは、販売する側が「儲かる順序に設計されている」という。

 店内レイアウトが「生鮮食品コーナー」から始まるのは、人間は「身体にいいもの」を選ぶと、その後「不健康なものに手を出してもかまわない」と思い込む性質があるためだ。カゴの中に「人参のパック」が入っていれば、「スナック菓子やクラフトビール」のコーナーを通るときに「罪悪感」も薄れて、つい手を伸ばしてしまう。これは「目標達成の代行」と呼ばれる現象だが、言われてみれば「自分も…」と、ハッとする人たちもいるだろう。

「認知バイアス」を取り除いて人を動かす

 メールやチャットなど、テキスト表現によって人を動かすためには何と伝えるべきか。例えば、職場での「アイデア出し」など、以下の書き方では、周囲からの返答を得られる可能性は低い。

「2か月前、“みんなでつくるプロジェクト”についてみなさんの意見を求めました。しかし、これまでに寄せられた回答は1件のみです。意見のある人は、明日までに送ってください。これは皆で実施するプロジェクトです。ご協力を」

 なぜ、返答を得られないのか。関係しているのは、私たちにある「認知性バイアス」だ。人間は、たとえ好ましくない行動であっても「自分と同じ状況の人間がいると安心」してしまう性質がある。

 先のテキストでは、“自分以外にも回答していない人もいる”と安心して、行動を促せなくなってしまうため、以下のように書き換えるのがふさわしいという。

「“みんなでつくるプロジェクト”は順調に進んでおり、これまでよりも多くの意見が集まってきています。できるだけ全員の意見を取り入れたいところですが、採用できるアイデアの数には限りがありますので、未提出の方はぜひ今週中に提出してください」

 本書の内容は“へぇ”とうなずくものから、日常で役立ちそうなものまで様々だ。人間の行動には理由があると気付けるのも面白く、普段の生活も違った視点から見えてくる。

文=カネコシュウヘイ

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