「心配」で学校に行き渋る子は「心配になる理由」を知れば前に進めるかも。「ツレがうつになりまして。」の細川貂々が生きづらい人たちに送る、“みらい”を学べる絵本

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/14

みらいってなんだろう
みらいってなんだろう』(細川貂々/講談社)

 映画化されたコミックエッセイ『ツレがうつになりまして。』や、対人関係療法の第一人者である水島広子医師との共著「それでいい。」シリーズなどで、“生きづらい”人たちに寄り添い続ける漫画家でエッセイストの細川貂々さん。新作『みらいってなんだろう』(講談社)は、好評につき重版もされた、心について学べる絵本『こころってなんだろう』の続編です。子供でもわかるような優しい言葉とイラストで、“みらい”や、ちょっと先のことを考えた時の“心配”にうまく向き合う方法を教えてくれます。

みらいってなんだろう P6

●“心配”は誰にでもある心の仕組みだから、悪いことじゃない

“心配”は、自分の身に起こるちょっと先のことに対して「自分にできるかな」などと不安を抱いた時にモヤモヤと心の中に現れますよね。本書の中でも、小学4年生のちぃちゃんが翌日の遠足について心配する様子が描かれています。乗り物酔いするからバスに乗るのが心配だし、体力がないから半日かけて森を歩けるのかどうかも心配。「みんなについていけるかな?」と、ちぃちゃんの中で心配な気持ちがぐるぐるとして、とてもつらそうです。

 ちなみに本書では、「将来どんな大人になるのか?」という遠い先のことだけではなく、「忘れ物ないかな」「明日の朝ちゃんと起きられるかな」といった目の前にあるようなちょっと先のことも“みらい”とされています。子供はたくさんの新しいことや初めての経験に囲まれて、未熟な心の中に毎日いろんな“心配”を抱えているのだな、ということが想像できます。

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 心配が重なるとつらくなりますが、本書によれば、「みらいって よくわからないから 心配になる」のだとか。先のことを考えて心配になるのは“こころの仕組み”のせいだから、誰にでもあることだし、心配するのは悪いことではないのだといいます。「初めてなんだから心配になるのは当たり前」「心配するのは悪いことではない」ということがわかれば、子供の心はすこし軽くなるかもしれません。

 不安を抱える子供には「心配しないで」ではなく、本書の帯にもあるように「心配になっても大丈夫」と投げかけてあげたいと思います。

みらいってなんだろう P13

●“みらい”でどうすればいいのか迷ったら、“記憶のひきだし”をあけてみる

 自分の“心配”を受け入れたのはいいとして、心配事をどう解決しようか、という課題が次に出てきますよね。迷った時にどうしたらいいのかわからない、ということも子供が心配になる要素のひとつだと思います。本書によれば、そういう時は、自分が経験したことを覚えておく“記憶のひきだし”が助けてくれるそうです。

“記憶のひきだし”のない赤ちゃんの頃は先にあることを何も心配していなかったけれど、いろんな経験をして、ひきだしができていくことで、だんだん「こうすればうまくいく」ということを自動的に選べるようになる。だから、どうしたらいいのか迷った時は、記憶のひきだしをあけてみて、それでもわからなければ、自分よりも長く生きて“ひきだし”を多く持っている大人に、何が心配なのかを話して相談してみるといい、というアドバイスが参考になりました。

みらいってなんだろう P17

 目の前に見たこともない知らないものが現れた時、「何かを知りたいから調べる」「人に聞いてみる」「わからないものは無視する」などといろんな考えが生まれ、その中から、その時どうしたらうまくいくのかを選ぶのが“みらい”なのだとか。たとえば、ちぃちゃんが「以前あの道を通ったら怖い犬に吠えられたな」と、“記憶のひきだし”を使って、違う道を歩くことにする…というのも、“みらい”のひとつ。

 いろんな“みらい”を選ぶうちに、「遠回りしてる?」「自分の道なんか見えない」などと気になるものですが、「えらんでいないほうの道がどうだったかなんて もうわからないから 気にしなくていいよ」という本書の言葉も、モヤモヤを抱えた子供の心に力強く響いてくれそうです。

 失敗をしてもそれが糧になるし、一歩ずつ進むだけで未来はつながり、自分だけの道ができていく、ということがわかりやすく紹介された『みらいってなんだろう』。“みらい”への不安を取りのぞくことで子供の視点が変わり、もっと違ったポジティブなことに目を向けられるようになるといいな、と感じます。

 学校の行き渋りなどで子供が悩んでいたら、この本をそっと手渡すタイミング。子供だけではなく、大人もまた、多くの気づきを得られる一冊です。

文=吉田あき

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