「微妙な味」って、イマイチなの? おいしいの? 時にはすれ違いや争いも生んでしまう、曖昧すぎる日本語の不思議

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/22

『世にもあいまいなことばの秘密』(川添愛/筑摩書房)
世にもあいまいなことばの秘密』(川添愛/筑摩書房)

「僕たちがこの先生きのこるにはどうしたらいいか」

 一瞬「ん?」と思わないだろうか。落ち着いて考えれば「この先、生き残るには」と判断できる。だがパッと見ただけでは、「先生が、きのこる?」と混乱してしまう。

 日本語はとても曖昧な言語で、我々ネイティブは無意識にさまざまな表現やルールを使い分けている。そんな曖昧な日本語の面白さを教えてくれるのが、世にもあいまいなことばの秘密』(川添愛/筑摩書房)だ。普段何気なく使っている言葉の意外な曖昧さを紹介しよう。

advertisement

表記に注意しないと、曖昧

 日本語の書き言葉は、平仮名、片仮名、漢字が使われている。平仮名だけでは意味が決まらないことがあるからだ。たとえば「こうしょう」という音を持つ言葉。交渉、校章、高尚、など、約50種類も存在する。漢字を使うことで、同音異義語の曖昧さを解消しているのだ。

 表記を使い分けることで単語の切れ目を分かりやすくする効果もある。「ここではきものをぬいでください」という例で考えてみよう。「ここで〈履き物〉を脱いでください」なのか「ここでは〈着物〉を脱いでください」なのか、漢字を使うと分かりやすくなる。

 だが、これだけでは解決しないのが日本語の面白いところ。「この先生きのこるには」の場合、適切な箇所に読点を打ち、切れ目をはっきりさせる必要がある。この曖昧さを利用したのが、お笑いトリオ・ロバートのコント「シャーク関口ギターソロ教室」。「シャーク関口」の「ギターソロ教室」だと思ったら、「シャーク関」の「口(くち)ギターソロ教室」だったというもの。漢字と仮名の間を単語の切れ目だと思いやすいという傾向を利用した巧みなコントだ。

イントネーションが分からないと、曖昧

 著者がSNSで見つけた「まだ署名やってるよ」という書き込み。アナタはこの一文をどのような意味で捉えただろう。

 とある署名活動について、ネット上で賛成派と反対派が意見を戦わせていた。著者は反対派の意見を多く目にしていたので、「もうやっても意味ないのにまだやってるよ」という意味に捉えて投稿したのだと思った。

 しかしその書き込みをした人のプロフィールを見てみると、賛成派。「まだやってるから、協力してね」という呼びかけだったのだ。話し言葉なら、最後の「よ」の音が下がっていると揶揄のニュアンスが伝わる。呼びかけるなら、最後の音は少し上がるはずだ。書き言葉では音が分からないため、勘違いが生まれやすい。

 このように日本語には、イントネーションに頼らないと意味の区別ができない場合がある。「いいよ」という一言も「OK」を表したいときと「必要ない」を表したいときとでイントネーションを変えているはず。ネットの書き込みのように音の情報がない場合、逆の意味で解釈してしまう可能性があることを覚えておきたい。

意味を知らないと、曖昧

 食べ物について「微妙な味」と言われたら、私なら美味しくなかったのかな?と思う。しかし辞書を引くと微妙には、いまいち良くないという意味のほか、「一言では表せない趣があること」の意味もある。趣があるとは、心惹かれる様子を指す言葉。知らないと、話が噛み合わないことがありそうだ。

 日本語は、複数の意味を持つ言葉が多い。微妙のように良い意味と悪い意味の両方を持つ言葉も多いので要注意。

 元は違うのに、あとから否定的な意味がついたケースもある。たとえば「忖度」は、相手の真意を推し量ること。しかし2010年代の政治問題の報道で、目上の人の意向を推測して都合がいいようにする、というイメージが付いてしまった。

 逆に「こだわり」はもともと些細なことを必要以上に気にするというマイナスの意味。しかし「こだわりの逸品」と言われると、良さを追求したイメージがあってつい選びたくなる。

 人によって、知っている意味や言葉へのイメージは違う。自分と他人の頭の辞書は違うと知ることが大切だ。

「私には双子の妹がいる」、一見すると問題無さそうにだが、自分と同じ年齢の双子の妹がいるのか。あるいは、自分よりも年下の双子の妹がいるのか曖昧だ。このような修飾語と名詞についての曖昧さなど、さまざまな例を本書では紹介している。どの例も曖昧さの原因を詳しく解説しているので、読めばモヤモヤが解決するだろう。クイズ形式になっている部分もあり、頭の体操にもぴったりだ。

文=冴島友貴

あわせて読みたい